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Cafetalk Tutor's Column

中村勇太 講師のコラム

足りないものを考えよう

2020年6月14日




演奏するとき、何が大切でしょうか?

これは何のために演奏するか、という問いでもあります。

 

こんなに速く弾けます!こんなこともできます!

というのはヴィルトゥオーゾピースではとても大切です。

でも、音楽の全てがそうではありません。

 

うーん。

では、派手なテクニック以外で必要なものはなんなのでしょうか。

 

正確な音程、正確な音価、正確なリズム、濁りのない発音…

これは派手なテクニックの基本ですね。

 

それじゃあ…伸びやかで煌びやかなヴィヴラート…美しい音色?

 

みなさんはどんな要素をイメージされましたか?

 

実のところ、美しい音色とは、ヴァイオリンを正しく鳴らすだけでは不十分で、

その曲のその音にふさわしい質感が伴わないといけません。

 

では動画を見てみましょう。

(例として、ドイツ民謡/山の音楽家、シューマン/詩人の恋〜冒頭を弾いてみました)

 

先の問いで、音楽性という言葉を想起された人もいるかもしれません。

 

では音楽性ってなんでしょうか?

 

たとえば、次の音が連想できる、というのはとても大切です。

これは音楽性、音楽的、という言葉にまとめられる一つの能力です。

(詳しく知りたい方は、R.シューマンの「音楽の座右銘」を読みましょう)

 

では、なぜ次の音が連想できるのでしょうか。

沢山聴いて、沢山弾く中で不協和音とその解決や、転調による浮揚感、気持ちの高揚などを感じとる。

それらの体験が経験値になるからでしょう。

 

基本的に音楽は言語の一種です。

それも、時代、文化圏によって異なります。

変わらない要素もありますが、すべての曲の楽譜で同じ読み方が適用できるとはいえません。

(この辺りの話は、アーノンクール著「古楽とは何か」に詳しく書いてあります)

 

ただし、その表現を楽器でどう行うか、というのは現代の楽器を使う限り、現代の楽器のテクニックです。

 

そこで、どのパートを弾くにせよ、欠かすことができないのが「音の質感」だと思います。

 

どんな楽器も、人間の語り口、歌声が基本だと考えます。

歌のメロディを楽器で弾く時...人の声の発音、アクセント、息継ぎ、イントネーション...

イメージしている声の質感をトレースして身につけていく技術。

 

これは楽器の物理的な理解、身体の運動の整理、楽器との一体感がないとできません。

 

話がすごく長くなりました。周辺領域に種まきをしすぎましたが(汗)、

自分の演奏にただ楽譜通りの正確さを求めず、言葉、歌としての理想を念頭に置きたいなぁ、と思います。

 

本コラムは、講師個人の立場で掲載されたものです。
コラムに記載されている意見は、講師個人のものであり、カフェトークを代表する見解ではありません。

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