英国の思い出 ー 鳥との交流(4)

Urashima Taro

  

湖水のゲストハウス

音姫が出産して息子(カメ吉)が生まれて3か月ほどしてから、2人は私に合流し、私達は大学のゲストハウスに住めることになりました。 

この大学は、恵まれた環境にありました。敷地に隣接していた小さいゴルフコースを、政府が買い取ってキャンパスを拡張していたのです。

緑が豊富であり、ゴルフコース特有の大きな池がありました。湖と言ってはやや大袈裟ですが、ジョギングで一周すると、かなり堪えます。

湖水にはアヒルと白鳥が泳ぎ、またカモメが来遊していました。カモメは海辺にいるものと、見たところ変わりません。海辺まで車で30分程度の街でしたので、カモメは海岸と湖水を行き来していたのかもしれません。

ゲストハウスは、各国からのビジターや私のような研究員が、家族とともに住むために、キャンパス内に建てられたものです。3階建ての棟割り住宅の長屋でした。

池から100mほどの距離にあり、ハウスの南側から湖岸まで、芝生が続いています。

緩い傾斜地に建っているため、一階の床より地面の方が高く、リビングの窓を跨いで芝生に出ることができました。 

私は、休日にはカメ吉を膝に抱き、音姫とともに窓辺に腰掛けて、芝生に寝転んで日光浴を楽しむ隣人達と会話を楽しみました。

やがてカメ吉も芝生に出て遊ぶようになり、私たちは人々とともに、昼食を外で摂ることもありました。  

 

アヒルの大行進 

この長屋に住むスペインの家族が、ある日の早朝、前日のパンの残りを、鳥の餌として窓から芝生にばら撒きました。 

これを最初に見つけたのは、湖のアヒルです。湖岸までかなりの距離があるので、どうやって見つけたのかは不明ですが・・・

スペインの子供たちは2,3羽のアヒルがパン屑をついばむのを楽しみに、翌日も同じことをしました。アヒルの数は増えていました。

三日目の朝には、さらに集団は大きくなっていましたが、パン屑が置かれていなかったため、アヒルは窓の外でガー、ガーと鳴き、催促しました。家族はその日に食べる予定だったパンの一部を与えて・・・

  

しかしここで、アヒルの催促は休日の早朝であったため、近隣から「うるさい」と苦情が出てしまいました。

スペインの家族は、パンを与えることを控えましたが・・・一度知ってしまったアヒルたちは、連日やって来て催促し、諦めません。 

もはや黙らせるためには、パンをやるしかありません。結局、その他の家族も、1軒、2軒・・・と加わるようになり、最後には苦情を言った人々も含めて、長屋の全員がパンをやるようになってしまいました。もちろんカメ吉も、喜んでパンを投げていました。

  

その頃には、池のすべてのアヒルが、行列でやってくるようになっていました。

彼等は大変に行儀が良く、 グアッ、グエッ・・・ と小さな声を発しながら、一列に並んで歩いて来ます。湖水から長屋まで続く、長い行列です。

そして、先頭の者はパン屑をくわえると、下がって列の後ろに付き、次の者が一歩進みます。

  

英語に「乞食の群れにパンを一切れ放り投げたような騒ぎ」という表現がありますが、どうやら人間より、英国のアヒルの方が行儀が良さそうです。 

 

余談

この長屋には、香港からやってきた中国人の家族が住んでいました。

御主人のK氏は、もともと病院の検査技師でしたが、バイオサイエンスの大学院生として社会人入学し、奥さんが夜勤の看護婦さんの仕事で家計を支えていました。

彼らはある日、私達も含めて数組の長屋の家族を招待し、御主人の手料理の北京ダックをふるまいました。K氏は料理の達人で、北京ダックは本格的でした!

食事を堪能した後、人々はダックの肉はどの店で手に入るのか、と口々に尋ねましたが・・・ 

彼は微妙な笑みを浮かべ、沈黙を守りました。

 

K氏は、後に台湾の大学の教授となり、国際的に活躍するトップサイエンティストになりました。

優秀な研究者である彼は、料理だけでなく、(ややブラックな味付けの)ジョークの達人でもありましたが・・・ 

 

Added to Saved

This column was published by the author in their personal capacity.
The opinions expressed in this column are the author's own and do not reflect the view of Cafetalk.

Comments (0)

Login to Comment Log in »

from:

in:

Categorie insegnate

Language Fluency

Giapponese   Madrelingua
Inglese   Sufficiente

Le rubriche di Urashima Taro più lette

  • liceo

    英国の思い出 ー 虫の知らせ(2)

    (前回のつづき)前回、英国の虫のサイズについてお話しましたが、私はその時にはじめて、夕方に自転車に乗るとき悩まされていた虫の集団の正体がわかりました。虫のサイズと動き   実際、これほど小さい虫は見...

    Urashima Taro

    Urashima Taro

    0
    3690
    Oct 30, 2022
  • liceo

    回り道をした人々 ー P.H. 教授の話(2)

    前回からの続きです。 奇跡の人   どのようにして大学に入学し、博士課程の奨学金まで得ることができたのか・・・それについては、Pは語りませんでした。 しかし誰もが口を揃えて、ドイツの教育制度で...

    Urashima Taro

    Urashima Taro

    0
    2877
    Dec 23, 2022
  • liceo

    回り道をした人々 ー P.H. 教授の話(1)

    まだドイツが東西に分断されていた頃のことです。 出会い 駆け出しの研究者であった私は、西ドイツで開催された、あるシンポジウムに参加しました。 そしてこのとき、後に「奇跡の人」と言われるようになっ...

    Urashima Taro

    Urashima Taro

    0
    2644
    Dec 14, 2022
  • liceo

    英国の思い出 ー 鳥との交流(5)

      前回は、キャンパスの湖に住むアヒルとの交流について書きましたが・・・     カモメのホバリング   アヒルだけではありませんでした。間もなく、湖水からはカモメもやってくるようになりました。  ...

    Urashima Taro

    Urashima Taro

    0
    2592
    Dec 11, 2022
« Tutte le rubriche
Got a question? Click to Chat