英国の思い出 ー 鳥との交流(5)

Urashima Taro

 

前回は、キャンパスの湖に住むアヒルとの交流について書きましたが・・・

 

 

カモメのホバリング

 

アヒルだけではありませんでした。間もなく、湖水からはカモメもやってくるようになりました。

 

カモメもまた、大変に行儀が良い鳥でした。

彼らは羽ばたきながら、ホバリングして停止し、空中に長い列を作ります。

先頭のカモメの鼻先にパンを放り投げると、ひょいと飛びついて口にくわえ、そのまま飛び去って列の後尾に付きます。

 

驚くべきは次の瞬間です。2番手の者が先頭の位置に、シュン! と瞬間移動し、ピタリと停止します。そして同じことが次々と後続に、連鎖反応のように起こるのです。

その速さは驚くべきでした。最後尾のカモメが移動するまでの時間はわずかで、列全体が瞬時に移動します。

 

 

見事な空中ショーに、長屋に住む子供たちは、喜んでパンを放り投げました。

先頭のカモメは、投げる位置が悪くても、取り損なうことは滅多にありません。たまに取り損なっても、地面に落ちたパン屑を拾い上げるか、見失えばそのまま後ろに飛び去ります。

落ちたパンくずを狙って、残っていた数羽のアヒルが、おこぼれを拾うこともありました。アヒルとカモメの時間帯は僅かにオーバラップしていましたが、アヒルの方が早く、カモメがやってくる頃には、殆どのアヒルは引き上げていたのです。

 

長屋の全世帯が餌付けに参加していたので、食料は十分にありました。

1軒の家でパンが終了すると、隣の家の窓で住人が待ち受けており、空中の列全体が、瞬時にそちらに移動します。列は長かったですが、それぞれの個体が3回ほど餌にありつけました。

 

 

「カモメの水兵さん」という童謡があります。

 

   並んだ水兵さん 駆け足水兵さん 仲良し水兵さん  ・・・

 

この歌詞は、私が見たような統制された集団行動を描いたものなのか、

 

それとも、このように統制された集団行動は、英国のカモメだけに特有なのか、 


メタボススメの貯め食いのように、同じ種類の鳥でも英国に特有の行動があるかもしれませんので、カモメについて知っている方がおられたら、ぜひ教えて頂きたいと思っています。

 

 

 

白鳥とアヒル

 

そして最後に、湖水のセレブたる白鳥もやって来ました。

 

白鳥は、頻繁に見かけたわけではありません。数がそれほど多くなく、数羽しか泳いでいない日も、全く姿を見ない日もありました。

 

遠くから眺める湖水の白鳥は優雅ですが、実は近くで見ると、そうでもありません。

大型で重量感があり、下の方の羽は、泥でかなり汚れています。

 

水かきは鮮やかな黄色で、白鳥が地上を歩くと、上半身をドレスアップした美人が作業ズボンと黄色いゴム長を履いているように見えます。やや興醒めでした。

 

そして、行儀よく並んで食べているアヒルの列に、当然のように割り込んできます。

小さなアヒルたちは、大人しく餌場を譲り、白鳥が去るまで待つしかありません。

 


セレブとはこのようなものか・・・人間社会の縮図を見たような気がしました。

 

長屋の住民の多くは、白鳥がやってくると、パンをやらなくなりました。

白鳥は地上に散らばっていた屑を少し口に入れ、間もなく去って行きました。そして、その後は来なくなりました。

  

 

 

余談

 

現実の白鳥にはやや幻滅しましたが、私は白鳥を主人公とした「醜いアヒルの子」というアンデルセンの童話が好きです。こちらは、アヒルが白鳥の子を苛めていた、という話から始まっていますが・・・

 

息子のカメ吉が言葉を覚え始めたころ、「ストーリーテラー」という童話朗読集のカセットテープを買い、音姫の英語学習もかねて、3人で良く聴いていました。 

英国は児童文学を大切にする国です。このとき、ほぼ原作に忠実な形で、この物語に接することになりました。

 

 

周囲の者と違っているため、家族から苛められて追い出され、自分と同じ白鳥の仲間に出会うまで、様々な場所を転々とします。

 

ようやく飼い主を得ますが、ネズミも捕れず、卵も産めません。猫やニワトリから、役立たずと迫害された上、告げ口により罪を着せられ、飼い主に追い出されます。 

 

そして冬が過ぎ、羽が生え代わり、立派な姿になった時・・・

彼の姿を見とめた白鳥の集団から使者が遣わされ、ぜひ仲間に加わって欲しいと、丁重に迎えられます。 

 

 

人々に蔑まれながらも、自分を信じて資質を磨き

やがて一流の文化人が集うメンデルスゾーンのサロンに招かれ、多くの文豪や芸術家と交流するようになった・・・

 

アンデルセンのこの作品は、その数年後に発表されました。

著者の人生が投影された傑作と思います。

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The opinions expressed in this column are the author's own and do not reflect the view of Cafetalk.

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