섬네일

弓と弦とバイオリン

中村勇太

バイオリンの音(空気の振動)は、3つに分けられます。

弦の振動で起こる空気の振動
弦の振動が伝わり、循環していく弓の振動
弦の振動が伝わり、循環していくバイオリンの振動

弦の振動は、弦そのものの特性、弓の毛や指での掴み具合、左手の締め具合、重みのかけ具合で変わります。

弓に振動がどう循環するか、はスティックの材質やフロッグとスティックの噛み合わせ、ヘッドの大きさ、首の細さなどで変わります。

バイオリンに振動がどう循環するか、はボディ本体の構造(板の厚さや隆起など)やセッティング(ネックの角度、駒や魂柱、テールガット、弦のゲージなど)によって変わります。

複雑ですね。絡み合っています。

最近感じていることをざっくばらんに書いてみます。


強い弦ほど楽器をよく鳴らす(よく振動させる)と思いがちですが、どうも違います。
弦を楽器に張ると、楽器には数十キロの重さが駒を通してかかっています。
つまり、強い弦を張ると、強い振動を起こしても、その強い振動を打ち消す重さが楽器の板にかかっています。

ハイフェッツやミルシュタイン、ロザンドといった人々がプレーンガットを組み入れていたりしたのはこの辺りにおおきな理由があるのではないか、と思っています。


重い弓、軽い弓があります。
重い弦を自然に(重力に従って)掴むためには、ある程度重たい弓の方が楽だなと思います。
ズッカーマンの弓は相当重たいそうです。

逆に、弱めの弦を重たい弓で弾こうとすると、簡単に音が潰れます。オールド弓が軽いのは経年変化の前にそもそもそういった弦の歴史とも繋がっている気がします。

自分自身は重たい弓の方が、重力に従うという基本の構え、動作はわかりやすいと思います。
自然な動作を分かった上で使わないと、軽い弓を押し付けて弦を掴む癖がつく懸念(弓も傷む心配)をしています。

バイオリン
どんなに調整をしても、(板を削ったり、ニスを変えたりしない限り)その楽器の本性は変わらないと思います。調整でできることは、その楽器の良さを出した上で、反応速度などを変えたりする程度だと感じています。
バイオリンを宙に浮かせて弾くことはできませんから、鎖骨に載せ、左手に載せ、指を載せ、弓を載せ...と色んなものが触れるのですが、顎で締め付けたり、弦を強く押さえたりするのも振動を止める要素になります。

自分自身は強い弦をやめてから、弦を指板に押し付けることはほぼ無くなりました。
指先に、弦が弦の振動で食い込んで音程が取れるようなボーイングをしています。
多分ですが、ものすごく速く弾けた昔の人が指先が柔らかかった、というのはこの辺の事情だと考えています。

よく弓を選ぶときに、バイオリンとの相性と言われます。
しかし、実は弓には弓に相応しい弾き方があり、バイオリンをベースに判断する視点だけでは微妙なのではないか、という感覚になってきました。

楽器に教わる
いい弓から新しい感覚を得ようと思うと、その弓が前提としているバイオリンのセッティングや弾き方が条件になるのではないか?
いい楽器から新しい感覚を得ようとすれば、その楽器が求めている弾き方が条件になるのではないか?

ここまでくると、じゃあ何が手掛かりなの?
何が前提条件クリアと言える最大公約数なの?という気持ちになると思います。

これが、伝統的な弾き方、伝統的な作り、伝統的な調整、なんだと理解するに至りました。

もちろん伝統は積み重なっていきますし、過程で微妙な蛇行もしています。
弓や弦にしても、各時代の名手が最新の道具を試したりする一方、演奏理論は少し前時代のスタイルをベースにしていたことも大事でしょう。その判断の結果、伝統に積まれてきているのをよく認識しておきたいです。

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