大学受験の漢文は、句法(文法)の知識と並んで、「漢字一字が持つ多様な意味(多義語)」を正確に把握できているかが、得点を大きく左右します。現代の日本語と共通する漢字であっても、漢文では全く異なる意味や、現代語にはない文法的な機能を持っていることが多いためです。
特に、文頭や文中で接続詞、あるいは助動詞のような機能を持つ漢字や、文脈によって意味が大きく変わる多義語をマスターすることは、漢文の読解スピードと精度の向上に直結します。
この記事では、大学入試の漢文で頻出する、特に注意が必要な「一字で複数の意味を持つ漢字」を中心に、入試レベルの読解に必須の100語を厳選してまとめました。このリストを「知の武器」として活用し、漢文の曖昧な読解から脱却し、確実な得点源とするための方法を解説します。
?? 1. 漢文の漢字が持つ「機能」の理解
漢文の漢字は、現代語の単語のように「意味」を持つだけでなく、文法的な「機能」を持つことが多いため、以下の3つの役割を意識して覚えることが重要です。
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実詞: 名詞、動詞、形容詞など、具体的な意味を持つ漢字。(例:山、行、美)
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虚詞(機能語): 句法を形成したり、文と文を繋いだりする漢字。(例:不、何、而)
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多義語: 文脈によって「〜と読む」「〜と読む」のように複数の意味を持つ漢字。
このリストでは、特に読解の鍵となる虚詞(句法語)と多義語に焦点を当てます。
?? 2. 厳選100語:頻出漢字とその重要意味
このリストは、特に文脈によって意味が変わりやすく、入試で問われやすい漢字を、機能別に分類したものです。
A. 接続・対比・逆接を表す漢字(虚詞)
漢字 読み方 意味 備考 而 しかシテ/しかルニ 順接(そして)、逆接(しかし)、対等(〜と) 文と文を繋ぐ最重要語。 乃 すなはチ 順接(そこで)、限定(ただ〜だけ) 則 すなはチ 順接・断定(〜ならば、つまり) 仮定・条件を表す。 故 ゆえニ 原因・理由(〜のために)、だから 是 こレ/こコニ/ここヲもって 指示(これ)、断定(〜である) 文頭で指示語になる。 抑 そもそモ/そもそも 語気を整える(さて)、あるいは 夫 そレ 語気を整える(そもそも、さて) 文頭で主題を提示する。 唯 たダ/たダシ 限定(〜だけ)、呼びかけB. 句法(否定・疑問・使役)の核となる漢字(虚詞)
漢字 読み方 意味 句法での役割 不 〜ず 否定(〜ない) 否定句法の基本。 未 いまダ〜ず 否定(まだ〜ない) 再読文字として頻出。 非 〜にあらず 否定・判断(〜ではない) 主に名詞を否定。 無 〜なし 否定・存在(〜がない) 「有」の対義語。 何 なんゾ/いづレ/なん 疑問・反語(なぜ/どれ/なに) 疑問・反語句法の核。 安 いづクンゾ/いづクニ 疑問・反語(どうして/どこに) 場所や理由を問う。 豈 あに〜や 反語(どうして〜か、いや〜ない) 強い反語を表す。 使 しム/つかヒ 使役(〜させる)、家来 使役句法の核。 令 しム/いましメ 使役(〜させる)、命令 見 〜る/まみユ 受身(〜される)、会う 受身句法の核。C. 多様な意味を持つ重要多義語
漢字 意味1(頻出) 意味2(文脈注意) 意味3(例外) 以 もっテ(〜によって) 〜をもって 〜と思ウ 之 こレ(これ) ノ(〜の) ゆク(行く) 為 〜す(する) 〜ために(理由) 〜なり(断定) 与 と(〜と) あたフ(与える) かな(疑問・反語) 可 べシ(〜できる) 〜すべキ(〜すべき) 〜べし(〜してよい) 而 しかシテ(そして) なんぢ(お前) しかルニ(しかし) 方 まさニ(ちょうど) 〜を比ぶ(比べる) 〜法(方法) 少 すこシ(少し) わかシ(若い) まれナリ(少ない) 道 みち(道、方法) いフ(言う) みちびク(導く) 辞 ことば(言葉) いなム(辞退する) やム(止める) 従 したがフ(従う) よリ(〜から) かなム(許す) 勝 あテ(勝つ) たフ(耐える、〜しきる) すぐレル(優れる) 悪 あク(悪い) いづクンゾ(どうして) にくム(憎む) 得 う(手に入れる) 〜えタリ(〜できた) 〜すべシ(〜できる) 謂 いフ(言う) 〜となス(〜と見なす) おもフ(思う) 説 とク(説く) よろこブ(喜ぶ) 許 ばかり(くらい) ゆルス(許す)?? 3. 漢文単語を定着させるための「連想と文脈」訓練
漢文の多義語は、文脈によって意味が変わるため、単なる一対一対応の暗記では不十分です。
訓練①:音読による「リズム」定着
単語を覚える際、その漢字が使われている句法の例文とセットで音読します。特に「之」「以」「於」などの機能語は、その音のリズム(「〜これ」「〜をもって」)で覚えることが、読解時の反射的な処理に繋がります。
訓練②:対立概念セットの暗記
多義語や機能語は、その対立概念とセットで覚えることで、文脈判断が容易になります。
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有無の対立: 有(あり) ⇔ 無(なし)
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肯定否定の対立: 然(しかり) ⇔ 不(〜ず)
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内外の対立: 内(うち) ⇔ 外(そと)
訓練③:「多義語ノート」の作成
多義語専用のノートを作り、漢字ごとに「頻出のAの意味」「文脈でBの意味」というように、例文を添えて記録します。
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例: 「以」
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意味1(手段): 剣 を以て 敵を討つ。
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意味2(場所): 〜を以て 東と為す。(〜をもって、〜とする)
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意味3(理由): 貧しきを以て、之を得ず。(〜によって、〜できない)
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入試問題で間違えた漢字は、このノートに必ずフィードバックし、「なぜこの文脈ではその意味になったのか」を分析することが、実力アップに直結します。
✅ 4. まとめ:漢文は「パズルのピース」を増やす作業である
漢文の読解は、句法という「ルール」と、漢字の意味という「ピース」を組み合わせるパズルです。特に、多義語や虚詞は、一つで複数の機能を持つ「万能ピース」であり、これらをマスターすることは、どんなに複雑な文章でも対応できる柔軟性を意味します。
この100語リストは、あなたの漢文読解の土台となる知識です。単に眺めるだけでなく、「この漢字が文頭、文中、文末に来たとき、どんな意味になるか」という視点を持って、繰り返し訓練を重ねてください。この漢字力が、あなたの大学受験合格を大きく後押しする確かな力となるでしょう。
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