「分かった?」
子どもの勉強を見ていると,つい口をついて出る言葉です。
私も指導の中で,油断するとこの言葉を使いそうになります。
でも,この一言で,
子どもの思考が静かに止まってしまうことがあります。
たとえば,数学の問題を一緒に見ている場面です。
親が説明します。
「ここで符号が変わるでしょ。だから,次はこうなるよね」
子どもはうなずきます。
「分かった?」
「うん,分かった」
親は少し安心します。
今日は平和に終わりそうです。
ここまでなら,よくある家庭学習の風景かもしれません。
ところが,その直後に
似た問題を一人で解かせてみると,急に手が止まる。
親の心の中には,静かにこの言葉が浮かびます。
「えー,さっき分かったって言ったよね」
でも,ここでそれを言ったら,だいたい終わりです。
子どもは問題を見なくなります。
親の顔色を見始めます。
そして始まるのが,家庭学習名物,
「第二ラウンド」です。
もちろん,言いたくなる気持ちは分かります。
かなり分かります。
ただ,ここで大切なのは,
子どもを責めることではありません。
子どもがいい加減に
返事をしていたとは限らないからです。
説明を聞いている時は,本当に
分かった気がしていたのかもしれません。
ただ,「説明を聞いて分かった気がすること」と,
「自分で考えて解けること」は,同じではありません。
■ 「分かった?」は,子どもには難しすぎる問い
「分かった?」に正確に答えるには,
子ども自身が,自分の頭の中を
整理できていなければなりません。
どこまでは分かっているのか。
どこからがあいまいなのか。
何をもう一度聞けばよいのか。
これを自分で判断する必要があります。
でも,勉強でつまずいている子ほど,
自分がどこで分からなくなっているのかを言葉にできません。
だから,「分かった?」と聞かれると,
考えるより先に,返事を探し始めます。
「分かった」と言えば,その場は終わる。
「大丈夫」と言えば,大人は少し安心する。
そうして,「分かった」と答えるのです。
子どもなりに,ちゃんと
場の空気を読んでいるのかもしれません。
ただ,そのまま進んでしまうと,まだ
あいまいな部分が残ったままになります。
■ 「何か質問ある?」も,実は答えにくい
同じように,「何か質問ある?」も注意が必要です。
一見,とても親切な問いかけに見えます。
相手に質問する機会を与えているように見えます。
でも,子どもにとっては,かなり広すぎる問いです。
何を質問すればよいのか。
どこを聞けばよいのか。
そもそも,質問と言えるほどの疑問なのか。
そこまで全部,子ども自身が考えなければなりません。
質問がないのではありません。
質問する場所が,まだ見つかっていないことが多いのです。
■ 大人同士でも起こる「質問ありますか?」問題
これは,子どもだけの話ではありません。
大人同士の会話や会議でも,同じことが起こります。
説明の最後に,
「何か質問はありますか?」
と聞かれても,すぐには手が挙がらない。
でも,あとになってから,
「そこはそういう意味だったんですか」
「先に確認しておけばよかったですね」
となることがあります。
尋ねる側に悪気はありません。
むしろ,相手を置いていかないための配慮です。
ただ,「何か質問ありますか?」は,親切に見えて,
実は相手に整理の責任を丸ごと渡していることがあります。
質問が出ないからといって,理解できているとは限りません。
その場で黙っているのは,納得しているからではなく,
まだ頭の中で整理している途中なのかもしれません。
家族で何かを決める時。
学校の面談で説明を受けた時。
職場で打ち合わせをしている時。
「何かありますか?」と聞かれても,
その場ではうまく言葉にならないことがあります。
だから,大人同士でも,問いを少し絞ることが大切です。
「何か質問ありますか?」
だけで終わらせるのではなく,
「日程のところで,不安はありませんか?」
「今の話で,引っかかるとしたら,どの部分でしょうか?」
このように,考える場所を少し示してあげる。
それだけで,相手はずいぶん答えやすくなります。
■ 問いを広げず,考える場所を絞る
伸びる家庭では,「分かった?」で終わらせません。
分かったという返事で満足するのではなく,
子どもがどこまで自分の言葉で説明できるかを見ています。
もし,分からないと言っても
そのことを責めるのではなく,
もう一度考え直せる入口を作るのです。
子どもへの問いかけも,同じです。
「分かった?」ではなく,
「ここまでは,自分の言葉で説明できそう?」
「最初の式と次の式,どちらが分かりにくかった?」
「答えは合っているけど,途中の考え方を言える?」
このように聞くと,子どもは考える場所を見つけやすくなります。
家庭学習で手が止まった時も,
「さっき分かったって言ったよね」
ではなく,
「どこまで一緒に戻ろうか?」
と聞けると,空気はかなり変わります。
家庭学習の最後なら,
「何か質問ある?」
ではなく,
「今日の内容で,もう一回聞きたいところある?」
と聞く方が,子どもはずっと答えやすくなります。
「分からないところある?」と聞かれると,
少し責められているように感じる子もいます。
でも,「もう一回聞きたいところある?」なら,
聞き直すことが自然になります。
問いかけは,相手を試すためのものではありません。
相手の頭の中を,一緒に整理するためのものです。
「分かった?」と聞くより,
分かる場所まで一緒に降りていく。
「何か質問ある?」と投げるより,
質問しやすい入口をこちらで作る。
問いかけの形を少し変えるだけで,
子どもの返事も,大人同士の会話も変わります。
本当の理解は,
「分かった」という返事だけでは見えません。
見えるようにするには,
問いかける側が,
少しだけ問いの形を変える必要があるのです。
家庭学習でよく起こるつまずきについて,
こちらもあわせてご覧ください。
■ 宿題の見方について
第9回:宿題を見ているのに伸びない理由|成績を変える“途中式”の見方
■ 間違いノートの使い方について
第11回:その「訂正ノート」,効果ありますか|“写して終わり”にしない復習法
※次回公開予定
子どもの勉強を見ていると,つい口をついて出る言葉です。
私も指導の中で,油断するとこの言葉を使いそうになります。
でも,この一言で,
子どもの思考が静かに止まってしまうことがあります。
たとえば,数学の問題を一緒に見ている場面です。
親が説明します。
「ここで符号が変わるでしょ。だから,次はこうなるよね」
子どもはうなずきます。
「分かった?」
「うん,分かった」
親は少し安心します。
今日は平和に終わりそうです。
ここまでなら,よくある家庭学習の風景かもしれません。
ところが,その直後に
似た問題を一人で解かせてみると,急に手が止まる。
親の心の中には,静かにこの言葉が浮かびます。
「えー,さっき分かったって言ったよね」
でも,ここでそれを言ったら,だいたい終わりです。
子どもは問題を見なくなります。
親の顔色を見始めます。
そして始まるのが,家庭学習名物,
「第二ラウンド」です。
もちろん,言いたくなる気持ちは分かります。
かなり分かります。
ただ,ここで大切なのは,
子どもを責めることではありません。
子どもがいい加減に
返事をしていたとは限らないからです。
説明を聞いている時は,本当に
分かった気がしていたのかもしれません。
ただ,「説明を聞いて分かった気がすること」と,
「自分で考えて解けること」は,同じではありません。
■ 「分かった?」は,子どもには難しすぎる問い
「分かった?」に正確に答えるには,
子ども自身が,自分の頭の中を
整理できていなければなりません。
どこまでは分かっているのか。
どこからがあいまいなのか。
何をもう一度聞けばよいのか。
これを自分で判断する必要があります。
でも,勉強でつまずいている子ほど,
自分がどこで分からなくなっているのかを言葉にできません。
だから,「分かった?」と聞かれると,
考えるより先に,返事を探し始めます。
「分かった」と言えば,その場は終わる。
「大丈夫」と言えば,大人は少し安心する。
そうして,「分かった」と答えるのです。
子どもなりに,ちゃんと
場の空気を読んでいるのかもしれません。
ただ,そのまま進んでしまうと,まだ
あいまいな部分が残ったままになります。
■ 「何か質問ある?」も,実は答えにくい
同じように,「何か質問ある?」も注意が必要です。
一見,とても親切な問いかけに見えます。
相手に質問する機会を与えているように見えます。
でも,子どもにとっては,かなり広すぎる問いです。
何を質問すればよいのか。
どこを聞けばよいのか。
そもそも,質問と言えるほどの疑問なのか。
そこまで全部,子ども自身が考えなければなりません。
質問がないのではありません。
質問する場所が,まだ見つかっていないことが多いのです。
■ 大人同士でも起こる「質問ありますか?」問題
これは,子どもだけの話ではありません。
大人同士の会話や会議でも,同じことが起こります。
説明の最後に,
「何か質問はありますか?」
と聞かれても,すぐには手が挙がらない。
でも,あとになってから,
「そこはそういう意味だったんですか」
「先に確認しておけばよかったですね」
となることがあります。
尋ねる側に悪気はありません。
むしろ,相手を置いていかないための配慮です。
ただ,「何か質問ありますか?」は,親切に見えて,
実は相手に整理の責任を丸ごと渡していることがあります。
質問が出ないからといって,理解できているとは限りません。
その場で黙っているのは,納得しているからではなく,
まだ頭の中で整理している途中なのかもしれません。
家族で何かを決める時。
学校の面談で説明を受けた時。
職場で打ち合わせをしている時。
「何かありますか?」と聞かれても,
その場ではうまく言葉にならないことがあります。
だから,大人同士でも,問いを少し絞ることが大切です。
「何か質問ありますか?」
だけで終わらせるのではなく,
「日程のところで,不安はありませんか?」
「今の話で,引っかかるとしたら,どの部分でしょうか?」
このように,考える場所を少し示してあげる。
それだけで,相手はずいぶん答えやすくなります。
■ 問いを広げず,考える場所を絞る
伸びる家庭では,「分かった?」で終わらせません。
分かったという返事で満足するのではなく,
子どもがどこまで自分の言葉で説明できるかを見ています。
もし,分からないと言っても
そのことを責めるのではなく,
もう一度考え直せる入口を作るのです。
子どもへの問いかけも,同じです。
「分かった?」ではなく,
「ここまでは,自分の言葉で説明できそう?」
「最初の式と次の式,どちらが分かりにくかった?」
「答えは合っているけど,途中の考え方を言える?」
このように聞くと,子どもは考える場所を見つけやすくなります。
家庭学習で手が止まった時も,
「さっき分かったって言ったよね」
ではなく,
「どこまで一緒に戻ろうか?」
と聞けると,空気はかなり変わります。
家庭学習の最後なら,
「何か質問ある?」
ではなく,
「今日の内容で,もう一回聞きたいところある?」
と聞く方が,子どもはずっと答えやすくなります。
「分からないところある?」と聞かれると,
少し責められているように感じる子もいます。
でも,「もう一回聞きたいところある?」なら,
聞き直すことが自然になります。
問いかけは,相手を試すためのものではありません。
相手の頭の中を,一緒に整理するためのものです。
「分かった?」と聞くより,
分かる場所まで一緒に降りていく。
「何か質問ある?」と投げるより,
質問しやすい入口をこちらで作る。
問いかけの形を少し変えるだけで,
子どもの返事も,大人同士の会話も変わります。
本当の理解は,
「分かった」という返事だけでは見えません。
見えるようにするには,
問いかける側が,
少しだけ問いの形を変える必要があるのです。
家庭学習でよく起こるつまずきについて,
こちらもあわせてご覧ください。
■ 宿題の見方について
第9回:宿題を見ているのに伸びない理由|成績を変える“途中式”の見方
■ 間違いノートの使い方について
第11回:その「訂正ノート」,効果ありますか|“写して終わり”にしない復習法
※次回公開予定
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