普段から和楽器が出てくる文学作品に関心があります。大体、和楽器が出てくるお話は読んだつもりでしたが、まだまだでした。
皆さまは、新美南吉の『最後の胡弓弾き』という本をご存知ですか?
私は最近知って、初めて読んでみました。
新美南吉の代表作といえば『ごんぎつね』。登場人物それぞれの心の機微が細やかに描かれ、最後に心臓が止まりそうに衝撃的な結末を迎えますが…。
この『最後の胡弓弾き』も同じです。
芸能が時代とともに下火になっていくさまがつぶさに描かれ、文章が進むにつれ、主人公と同じように読者も気持ちが追い詰められていきます。人の心に救いがあると思った明るい場面もつかの間、落ち込んだ主人公の心をさらに奈落の底に落とすような壮絶な幕切れとなります。
私は、心臓がドキドキして、放心状態になりました。
本書のあらすじは、簡単にいうと、時代の波とともに年々芸能者が減っていき、最後に誰も演奏しなくなる、ということ。お話の素材は、胡弓や鼓を持ってお正月に家々の門の前で演奏して報酬を得るという風習です。
お正月に行っているということから、おそらく三河万歳の風習かと思われますが、家の門の前で演奏するという演奏スタイルは、門付け(かどつけ)と呼ばれ、広く全国的に日常的に行われていたことです。たとえば、津軽三味線は、この門付けがルーツです。
門付けは、時代とともに廃れていきました。主人公は、胡弓が大好きで、毎年お正月に門付けをするのを楽しみにしていましたが、最後の年には、妻に「もうちっと早くうまれて来るとよかっただ」と言われます。その通り、時代が変わってしまい、胡弓を聴いてくれる人はいなくなってしまったのでした。
時代の変化と人の心の変化が切々と胸に迫る作品でした。
青空文庫ですぐに読めます。
青空文庫 最後の胡弓弾き
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