小論文対策を進めるうえで、最も重要なポイントのひとつが「具体例」の使い方です。どれだけ論理が通っていても、抽象的な言葉ばかりで構成された文章は、読み手の心に響きません。逆に、ありふれたテーマでも具体例をうまく使えば、説得力と印象の強さが格段に増します。大学入試の小論文では、こうした「具体性のある表現」が評価を左右する大きな要素となるのです。
この記事では、大学入試小論文における具体例の役割や、効果的な使い方、注意点について詳しく解説します。高校生本人はもちろん、保護者の方も一緒に理解しておくことで、今後の学習計画に具体性と深みを加えることができるはずです。
具体例が小論文にもたらす3つの効果
まずは、小論文に具体例を入れることで得られる主な効果を3つ紹介します。
1. 説得力が増す
「私たちは環境問題にもっと真剣に向き合うべきだ」という主張だけでは、読者に強い印象を与えるのは難しいでしょう。しかし、「例えば、マイクロプラスチックによる海洋汚染は、私たちが日常的に使用している洗顔料や洗濯による繊維くずが原因となっていることが明らかになっている」と具体的な事例を加えることで、説得力が格段に増します。
2. 抽象的な言葉の補足になる
「協調性」「多様性の尊重」「主体性」など、大学入試で頻出のテーマはどれも抽象的です。抽象的な概念だけで文章を構成してしまうと、どこかふわふわした印象になりがちですが、具体的な出来事や経験を通して補足することで、読み手の理解を助け、評価につながります。
3. 読者の記憶に残りやすくなる
具体例には、読み手のイメージを喚起する力があります。イメージが明確な文章は、採点者の記憶にも残りやすく、他の受験生と差をつける武器になります。
どんな具体例を使えばいいのか?
「具体例を入れろ」と言われても、何をどこから持ってくればいいのか迷う人も多いでしょう。使える具体例には主に次の3種類があります。
1. ニュースや時事問題
新聞記事やニュース番組、NHKの時事解説などから得られる知識は、入試小論文に非常に有効です。たとえば「リーダーシップ」がテーマであれば、ウクライナ侵攻下のゼレンスキー大統領の国民への呼びかけなどが例に使えます。高校生には難しく感じられるかもしれませんが、日頃からニュースに触れ、自分の言葉で要約できるようにしておくことが大切です。
2. 歴史的な出来事・人物
「努力」「失敗と成功」「信念」などのテーマでは、歴史上の偉人が非常に使いやすい題材です。坂本龍馬、渋沢栄一、ヘレン・ケラー、マララ・ユスフザイなど、実在の人物の行動やエピソードは、重みのある具体例になります。
3. 自分の実体験
実は最も説得力があるのが、自分の経験に基づいた具体例です。部活動での挫折や成功、文化祭の取り組み、ボランティア活動、家族との関係、学校での人間関係など、身近な体験ほどリアルで感情に訴える力を持っています。ただし、自慢話や感情的すぎる記述にならないよう注意が必要です。
具体例を使うときの構成パターン
具体例をただ羅列するだけでは、文章の軸がぶれてしまいます。小論文で具体例を効果的に使うには、以下のような構成パターンを意識するとよいでしょう。
【基本構成】
-
主張(結論)
例:「人との違いを受け入れる姿勢が、真の多様性を生むと考える」 -
理由の説明
例:「同質性を求める日本社会では、違いを排除しがちだからだ」 -
具体例
例:「例えば、ある特別支援学級の生徒が、文化祭のポスター制作で驚くようなセンスを発揮し、それまで無関心だったクラスメイトの意識が変わったという話がある」 -
主張の補強・まとめ
例:「このように、違いを受け入れることで、思わぬ価値が生まれることもある」
このように、「主張→理由→具体例→再主張」という流れを意識すると、論理的で読みやすく、説得力のある小論文になります。
やってはいけない具体例の使い方
効果的な具体例があれば、逆にマイナスになってしまう例もあります。以下のような使い方には注意しましょう。
1. テーマと関係の薄い具体例
具体例がテーマとずれていると、むしろ論旨がぼやけてしまいます。「自主性」がテーマなのに、「受験勉強で努力した」という話だけでは抽象的すぎて、的確に主張を支えられません。
2. 一般化できない例
「私は小学生のときからずっとピアノを習っていて……」という個人的すぎる話は、小論文には向きません。個人の経験を出発点にしてもよいのですが、そこから社会的な意義や一般的な考察にまで発展させることが必要です。
3. データの誤用・不正確な情報
時事的な具体例を使う際には、数字や内容が正確であるかを必ず確認しましょう。間違った情報は、それだけで評価が下がってしまいます。データを使う場合は、出典や背景も把握しておくことが大切です。
具体例のストックを日常的に増やす方法
本番で急に思いつくのは難しいため、普段から「使えそうな具体例」を意識的にストックしておくことが重要です。
-
新聞記事やニュースで気になったものをメモする
-
読んだ本や小説から印象的な場面を抜き出しておく
-
学校生活での出来事を日記やノートに記録しておく
さらに、週1回でも「小論文ネタ帳」のような形でまとめておくと、いざというときにとても役立ちます。スマホのメモアプリや、紙のノートを活用してみましょう。
おわりに:差がつくのは「例の質」
小論文において、同じような主張を書いていても、「具体例の質」が高い人の文章は明らかに評価が高くなります。それは、読み手に「この人は深く考えているな」「本当にそう感じた体験をもとに書いているな」と感じさせるからです。
逆に、どこかで聞いたような例や、曖昧なままの具体例では、他の受験生に埋もれてしまいます。だからこそ、今のうちから意識的に「具体例の引き出し」を増やし、「その例をどう使えば論理が強化されるか」を考えて書く練習を積みましょう。
それが、小論文の得点力を一気に引き上げる、最短の道です。保護者の方も、ぜひお子さんと一緒にニュースや読書の中で「これは小論文に使えるかも」と話題にしてみてください。それが自然な思考力トレーニングにつながります。
コメント (0)