清少納言の『枕草子』は、古文の中でも特に出題頻度が高く、共通テストから国公立二次試験、私大入試まで幅広い試験で取り扱われます。内容が多岐にわたる随筆であるため、文章ごとにテーマも文体も語彙も異なり、苦手にする受験生は少なくありません。
しかし、出題される章段には一定の傾向があり、押さえるべきポイントも明確です。
本記事では、大学入試で頻出の章段テーマと、設問でよく問われる内容、そして効率的な対策方法を丁寧に解説します。
■ 1. 『枕草子』が出題される理由
大学入試で『枕草子』が扱われるのは、次のような理由があります。
① 情景描写が多く、語句の理解力が測れる
感性豊かな描写や比喩が多く、古語の意味や文脈把握が試されます。
② 清少納言の視点が鮮明で、主観理解の力が問われる
作者の感情・評価が明確に出るため、人物の心情読み取りがしやすく、設問を作りやすいのです。
③ 平安貴族の生活文化の知識が必要
衣服、儀式、季節の行事…現代と価値観が違う部分を理解できているかを試せる教材となっています。
こうした理由から、出題者にとって使いやすく、受験生にとっても「知識+読解」を練習する場として最適な作品になっています。
■ 2. よく出る章段テーマと特徴
① 季節感を描く章段(例:春はあけぼの)
『枕草子』といえばまずこれ。四季の情景を端的・明快に描く章段です。
出題ポイント:
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各季節の情景の具体的な描写は?
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清少納言が特に好むポイントはどこか?
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「をかし」の美意識(明るい・風情がある)
現代文の比喩表現にも通じる「描写→評価」の構造を理解することが重要です。
② 宮廷生活・儀式系(例:うつくしきもの・にくきもの)
宮中の生活や人間観が見える章段。価値観が現代と異なるため、背景知識が必須です。
出題ポイント:
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どんな出来事を評価しているか
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何を「よい」「悪い」と感じるか
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貴族文化(服装・儀式・身分)に関連する語彙
特に「類聚章段」(〇〇は〜)の形式は、説明問題や要旨把握に使われます。
③ 人物観察系(例:人にあたらしきもの)
他者を観察し、好悪の評価を述べる章段です。
出題ポイント:
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清少納言の価値観の「基準」が何か
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何に対して「美し」「にくし」と感じるか
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文脈の流れ(評価→理由)がわかっているか
人物の性格描写とは違い、「作者の視点」そのものを読む必要があります。
④ 滑稽・皮肉系(例:にくきもの)
ユーモアや毒舌が混じった章段で、文意の把握が難しいことも。
出題ポイント:
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文中の皮肉表現
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現代の価値観で読まないこと
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当時の女性・貴族の感覚を理解すること
特に「言外の意味」を読み取る設問が多く、記述対策にも適した素材です。
⑤ 清少納言のプライドが現れる章段(例:中宮定子との関係)
清少納言の自負心や宮廷内の心理的描写が含まれる章段。
出題ポイント:
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清少納言が重視している価値観
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自分の能力に対する自負
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宮中における立場関係
特に「自意識の高さ」が読み取れているかどうかが設問に直結します。
■ 3. 設問でよく問われるポイント
『枕草子』は出題範囲が広いため、設問には一定のパターンがあります。
よく問われるテーマを整理すると以下の通りです。
① 語句の意味(古語・和語・文脈語)
随筆は語彙の幅が広いため、語句問題が基本。
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「をかし」
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「あはれ」
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「いと」
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「すさまじ」
などの評価語は必ず押さえる必要があります。
② 筆者の心情・評価
特に多い設問です。
例:
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筆者が「美しい」と感じる理由は?
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なぜここで不快に感じたのか?
重要なのは、「筆者の立場から読む」こと。
現代人の価値観と平安貴族の価値観は違うため、知識ゼロで読むと誤解が生まれます。
③ 理由説明(〜のはなぜか)
描写→評価の流れを踏まえて、「理由」を補う問題が多いです。
記述式で出ることもあります。
書くポイントは以下の2点。
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原文の言い換えを中心に書く
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評価語(〜をかし・〜にくし)につながる理由を示す
④ 内容一致問題・空欄補充
法助動詞・敬語・係り結びが多用されるため、文法理解が必須。
例:
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「けり」=詠嘆か過去か
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敬語の方向
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係り結びによる強調
知識と読解が融合する典型的な学習素材です。
⑤ 本文内容の要約・主題把握
特に私大で頻繁に出題されます。
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何を評価している章段なのか
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章段全体の視点はどこにあるか
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類似表現が繰り返される理由
「分類」や「要点抽出」の力が試されます。
■ 4. 『枕草子』対策でやるべき3つの学習
『枕草子』は量が多いため、全てを完璧に覚えようとすると非効率です。
大学入試対策として確実に身につく勉強法を3つ紹介します。
① 頻出章段だけを集中的に読み込む
例えば以下が代表的です。
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春はあけぼの
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にくきもの
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うつくしきもの
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中宮定子に仕えた場面
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香炉峰の雪(清少納言の才気)
入試でよく出るのはこのあたりで、全章段のうちごく一部に集中しています。
② 背景知識を押さえておく(宮廷文化)
最低限必要な知識は以下。
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衣服の色と季節感
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年中行事
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女房・中宮の地位
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貴族の日常生活
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和歌文化
知識があると「なぜ清少納言がそう評価するか」が一気に読み取れます。
③ 語彙・評価語を暗記する
随筆は評価語によって筆者の感情が一気に読める素材です。
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「をかし」=明るく美しい
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「あはれ」=しみじみとした情緒
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「つれづれなり」=退屈だ
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「すさまじ」=興ざめする
このあたりの語の感覚をつかむと、読解速度が上がります。
■ 5. 設問対策:タイプ別の解法ポイント
よく問われる設問をタイプごとに攻略法を示します。
① 語句意味問題
→ 文脈から判断し、評価語は必ずチェック。
辞書的な意味ではなく「その段での意味」を優先すること。
②心情・評価
→「何が」「どのように」描かれているかを拾い、
→ 結果として「どう感じたのか」をまとめる。
構文例:
「〜が…ため、筆者は〜と感じている。」
③理由説明
→ 評価語の根拠を原文から取り、因果関係を明確にする。
→ 抽象語より具体表現を優先する。
④内容一致
→ 語句の主語を必ず確認。
→ 清少納言の主観なのか、客観描写なのかを意識する。
『枕草子』は主語が省略されるケースが多く、誤読の最大要因です。
⑤要約・主題
→ 一文の評価語を手がかりにまとめると失敗しない。
→ 類似表現の繰り返し=筆者の最重視ポイント。
■ 6. まとめ
『枕草子』は、情景描写・人物観察・皮肉・宮廷文化が入り混じる多彩な随筆で、私大から共通テスト、国公立まで幅広く出題され続けています。しかし、出題範囲は広いように見えて、実際には「頻出章段」「評価語」「筆者の主観」という明確なポイントに絞られています。
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頻出章段を集中的に学ぶ
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評価語を感覚で理解する
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筆者の価値観を捉える
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設問のパターンを知る
これらを押さえれば、『枕草子』はむしろ得点しやすい分野になります。
古文の得点を安定させたい受験生にとって、『枕草子』は「努力が点に直結する教材」です。効率的に対策し、得意分野へと変えていきましょう。
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