ー第5章ー
やすやすと、素早く飛んでいた。カヌーが厄介なジグザグ形の動きをしていたので、操縦士のバティストが素面じゃないということがすぐ分かった。コントレコーアーの鐘楼を30メートルの距離で避けて、西にあるモントリオールに向かうより、彼はリシュリュー川に沿う道の上を進むことにした。あっという間に、ベルーユの山をこえて、たった3メートルの近さで、なんとかケベックの司教が頂上に立てた節制の十字架を避けられた。
「右!バティスト!右に行ってくれ!しっかり操縦しないと、このままだと十字架にぶつかって地獄に落ちるぞ!」
バティストは無意識にカヌーを右に向かせて、遠くに見えるモントリオールを狙ってカヌーを進ませた。正直いうと、その時点で恐怖を感じ始めていた。バティストが、この操縦をそのまま続けていると、十字架にぶつかって地獄に落ちて永遠に燃えてしまう可能性が高くなっていた。予想通り、間もなくカヌーは墜落した。モントリオールの上を飛んでいた時に、バティストの乱暴な指示がカヌーを滑らせ、山の開拓地の雪に突っ込んだ。幸い、泡雪だったので怪我人は出なかった。カヌーも無事だった。カヌーが再びやっと飛び始めた途端、バティストは大声で悪口雑言し始めて、ガティノーに帰る前に町に降りて飲みに行きたいと言い出した。説得しようとしたが、酔っ払いと話すのはなかなか意味ないもんだ。魂がサタンのものになってしまうのが不安で、もどかしがっていた俺は心配していた他の仲間と目を合わせて合図をした。皆で一斉にバティストを襲って、怪我させないように彼を組伏せた。ソーセージのようにぐるぐる巻きに縛った後、飛んでいる時に危ないことを言い出さないようにさるぐつわをかませた。そのままで、カヌーの底に寝かせた。
アカブリ!アカブラス!アカブラム!
猛スピードでもう一度飛び始めた。それはガティノーの木こり場につかなきゃいけない時間まで後1時間しか残っていなかったからだ。今回は俺がちゃんと操縦していた。ラポイントまで素早くウタウエ川を遡って、木こり場へ向かった。後数キロというところで、バティストは急に縄から脱し、口からさるぐつわを外し、大声で毒づきながらカヌーにまっすぐに立って拾った櫓を振り回しはじめた。もし、その獣のように暴れている彼を抑えようとしたとしたら、60か90メートルの高さから墜落することになっていたに違いない。バティストは、拾った櫓を振り回して、俺らを脅かしていた。なんてこった!幸い、後少しで着くところだったが、俺がバティストが振り回している櫓を避けるためにおこした過失のせいで、カヌーは大木の松のてっぺんと衝突して、俺らは撃たれたヤマウズラのように枝から枝へ転げ落ちた。地面に着く前に気絶したのでどれぐらい長く落ち続けたのかは覚えてはいない。最後に覚えているのは底のない井戸に落ちていく夢のような感覚だ。
ー第6章ー
「朝の8時ぐらい自分のベッドで起きた。同僚の木こり達は、意識を失って首上まで雪の吹きだまりに入っていた俺たちを小屋まで運んでくれたとのことだったそうだ。幸い、仲間はみんな無事だったが、当然、身体は、どこもかしこも痛かった。俺は、目の周りに黒あざができていた上、手と顔は擦り傷だらけだった。魂が助かったのは何よりだった。雪の吹き溜まりで倒れていたので、空を飛んだ仲間の8人は、同僚の木こり達の間では、飲みつぶれたという噂になったが、俺達は、それを否定しようとはしなかった。彼女に会うだけのために魂をかけたなんてことは全く誇るもんじゃないんで当然、自慢なんてできない。何年かが経ってから、やっと、その夜の出来事を語れるようになった。
と言うわけで、真冬に彼女と会うだけのために空飛ぶカヌーに乗ることはそう楽しくないもんだ。特に酔っ払いが操縦しようとする時はな。俺の言葉を心に留めるなら、お前ら、女と会うのは夏にしろ。そうしたら、魂に危機にあわせないで済む。」
コックのジョーはお玉を黄金色に反射する沸き立つ糖蜜に入れた。
「糖蜜ができた。あとは伸ばすだけだ。」
終
ー後書きー
皆さん、どうでしたか?楽しい物語でしたか?
空飛ぶカヌーはケベック州の文化の一部であることでいろんな場面に影響が見えます。もちろん、実写で映画化されたり、アニメで映画化されたりしました。この下はそのトレイラーです。(フランス語ですみません。それでもジョーがわかりますか?)
物語に基づいた、曲や子ども向けの絵本もたくさんあります。
あとはユニブルーと言うケベックのビールメーカーが、空飛ぶカヌーをイメージした「La Maudite」(呪われた)と言うビールも製造しています。




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