「漢文は英語や古文に比べて覚えることが少なくて楽だ」 受験界ではよく言われる言葉ですが、これは半分正解で、半分は間違いです。確かに覚えるべき「句形」は限られていますが、実は多くの受験生が盲点にしているのが「漢字そのものの意味(語彙力)」です。
漢文に出てくる漢字は、私たちが日常使っている日本語の意味とは異なるケースが多々あります。例えば、「教」という字を「おしえる」としか認識していないと、使役の「〜しむ(〜させる)」という重要な文脈を見落としてしまいます。
漢文で高得点を安定させる最短ルートは、頻出語の意味を正確に押さえること。この記事では、大学入試漢文において合否を分ける最重要漢字100語を、役割別に整理して徹底解説します。
1. 漢文攻略の鍵は「多義語」と「日本語とのズレ」
漢文の語彙学習において大切なのは、単なる暗記ではありません。以下の2点を意識しましょう。
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日本語の意味に引きずられない: 「迷惑」は「道に迷う」という意味であり、「愛」は「おしむ」という意味で使われることがあります。
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句形とセットで覚える: 漢字単体ではなく、その漢字がどのような句形(否定、疑問、使役など)を構成するかをリンクさせます。
それでは、ジャンル別に重要100語を見ていきましょう。
2. 【最重要】句形を構成する基本漢字(30語)
これらは単語としての意味以上に、文章の骨組みを作る「機能語」としての側面が強い漢字です。
否定・禁止
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不(ず):打ち消し。
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非(にあらず):〜ではない(名詞の否定)。
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無(なし):存在しない、持っていない。
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勿(なかれ):〜するな(禁止)。
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莫(なかれ/なし):〜するな/〜なものはない(強い否定)。
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未(いまだ〜ず):まだ〜していない。
疑問・反語・詠嘆
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何(なに/なんぞ):何、どうして。
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安(いづくんぞ):どうして(反語に多い)。
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孰(たれか/いづれか):誰が、どちらが。
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焉(いづくんぞ/を/んや):どうして/文末で断定・詠嘆。
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幾(いくばく):どれほど。
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豈(あに〜んや):どうして〜だろうか(いや、〜ない)。
使役・受身
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使(しむ):〜させる。
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教(しむ):〜させる(教育してさせる)。
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遣(しむ):〜させる(派遣してさせる)。
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見(る/らる):〜される(受身)。
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被(る/らる):〜される(被害を受けるニュアンス)。
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為(る/らる):〜される(「為A所B」の形で多用)。
比較・選択・限定
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如(ごとし/しかず):〜のようだ/〜に及ばない。
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若(ごとし/しかず):〜のようだ/〜に及ばない。
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猶(なほ〜ごとし):あたかも〜のようだ。
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寧(むしろ):いっそ〜のほうがよい。
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独(ひとり〜のみ):ただ〜だけだ。
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唯・唯(ただ〜のみ):ただ〜だけだ。
再読文字・その他重要語
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宜(よろしく〜べし):〜するのがよい。
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須(すべからく〜べし):〜する必要がある。
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猶(なほ〜ごとし):ちょうど〜のようだ。
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蓋(けだし):思うに、たぶん。
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盍(なんぞ〜ざる):どうして〜しないのか(勧誘)。
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且(かつ/まさに〜んとす):しかも/今にも〜しようとする。
3. 【読解に必須】日本語と意味が異なる重要語(40語)
現代日本語のイメージで読むと誤読する、試験頻出の単語です。
感情・性格・評価
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愛(を惜しむ):大切にする、出し惜しみする。
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憐(あはれむ):かわいがる、大切にする。
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怨(うらむ):恨むだけでなく「責める」というニュアンス。
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肯(あへて/がへんず):承知する、うなずく。
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忌(いむ):嫌う、恐れる。
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惑(まどふ):迷う、疑う。
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恣(ほしいまま):勝手気ままにする。
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謙(へりくだる):自分を低くする。
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傲(おごる):威張る、侮る。
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賢(けん):優れている、立派な人。
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能(よくす):できる、能力がある。
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称(たたふ/称す):ほめる/呼ぶ。
行動・状態
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易(かふ):取り替える(「易しい」以外の意味)。
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辞(じす):辞退する、別れを告げる。
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謝(しやす):謝る、断る、お礼を言う。
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過(よぎる):立ち寄る(「過ち」以外の意味)。
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患(わづらふ):思い悩む、心配する。
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事(つかふ):仕える(仕事をする)。
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対(こたふ):目上の人に答える。
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勝(たふ):耐える、持ちこたえる(「勝つ」以外の意味)。
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卒(しゆつす):死ぬ(身分の高い人の死)。
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服(ふくす):従う、降参する。
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質(しち):人質。
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造(いたる):行く、到着する。
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遊(あそぶ):旅をする、他国へ勉強に行く。
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遺(わする/おくる):忘れる/贈る、残す。
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私(ひそかに):こっそりと。
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徐(おもむろに):ゆっくりと。
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具(つぶさに):詳細に。
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悉(ことごとく):すべて。
社会・人間関係
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君子(くんし):徳のある立派な人。
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小人(せうじん):器の小さい人、つまらない人。
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丈夫(ぢやうぶ):一人前の男。
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左右(さいう):側近、身近な家来。
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百姓(ひやくせい):人民、国民(農民だけではない)。
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社稷(しやしよく):国家。
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遠慮(ゑんりよ):遠い将来まで見通した深い考え。
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多少(たせう):多いか少ないか。あるいは「どれほど」。
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所以(ゆゑん):理由、手段、方法。
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相(あひ):互いに/大臣(宰相)。
4. 【高得点への壁】抽象概念・副詞・接続詞(30語)
難関大や共通テストで、文脈を正確に追うために必要な単語です。
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安(いづくんぞ/安んず):どうして/安心する。
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幾(ほとんど):もう少しで(危うく〜するところだ)。
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宜(むべなり):もっともだ、当然だ。
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抑(そもそも):さて、あるいは。
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如是(かくのごとし):このようである。
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奈何(いかん):どうすればよいか、どうであるか。
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所謂(いはゆる):世に言うところの。
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是以(ここをもつて):こういうわけで。
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是以(ここにおいて):そこで。
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向(さきに):以前に。
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嘗(かつて):以前に。
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偶(たまたま):偶然に。
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適(たまたま):ちょうど、たまたま。
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信(まことに):本当に。
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固(もとより):本来、言うまでもなく。
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素(もとより):ふだんから。
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終(つひに):結局、最後には。
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遂(つひに):そのまま、こうして。
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卒(つひに):とうとう、ついに。
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微(もし〜なくば):もし〜がなかったら。
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縦(たとひ〜とも):たとえ〜だとしても。
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仮(たとひ〜とも):たとえ〜だとしても。
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毎(つねに):いつも。
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復(また):ふたたび。
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亦(また):〜もまた同様に。
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又(また):さらに。
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或(あるいは):ある人は、もしかすると。
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凡(およそ):すべて、一般に。
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聊(いささか):かりそめに、少し。
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方(まさに):ちょうど、今まさに。
5. 効率的な「漢文漢字」の暗記法
これら100語をただ眺めていても、試験で使える知識にはなりません。以下のステップで反復しましょう。
① 「書き下し文」のリズムで覚える
漢文は音読が最強の勉強法です。「私(ひそか)に」「過(よぎ)る」というふうに、送り仮名を含めた読みとセットで声に出してください。リズムで覚えると、白文(漢字だけの文)を見たときにも自然と読みが浮かぶようになります。
② 例文の中で役割を確認する
単語帳の単体暗記だけでなく、必ず短文演習を組み込みましょう。「謝」という字が出てきたとき、文脈が「感謝」なのか「謝罪」なのか「拒絶」なのかを判断する練習が、そのまま入試対策になります。
③ 「対義語」を意識する
「君子」と「小人」、「王」と「覇」など、漢文には対比構造がよく登場します。セットで覚えることで、文章のテーマがより鮮明に見えてきます。
6. 保護者の方へ:漢文は「直前期の救世主」です
お子様が受験勉強で忙しい中、漢文に時間を割くのをためらっているかもしれません。しかし、漢文は英語や数学に比べて「努力に対する得点上昇率」が異常に高い科目です。
もし模試の国語で点数が安定しない場合、その原因の多くは古文・現代文の波にあります。一方で、漢文は語彙と句形さえ固めれば、大崩れすることがほとんどありません。 「漢文は一度固めれば満点が狙える武器になるよ」と、ぜひ背中を押してあげてください。この100語をマスターするだけで、共通テストや私大入試の風景は劇的に変わります。
7. まとめ:100語の先に「満点」が見える
漢文の勉強を「漢字の羅列」として捉えるか、それとも「論理的なパズル」として捉えるか。その境界線は、今回紹介した100語を知っているかどうかにあります。
漢字一文字の持つ「力」を理解すれば、返り点に頼らなくても文章の意味が自然と流れ込んでくるようになります。まずは1日10語ずつ、10日間でこのリストを自分のものにしてください。
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