「文章を読んでいるはずなのに、内容が上滑りして頭に入ってこない」 「哲学や芸術論など、なじみのないテーマだと手も足も出ない」
共通テストの現代文(特に第一問の評論)に挑む受験生から、最も多く寄せられる悩みがこれです。共通テストの評論文は、年々抽象度が増しており、日常生活ではまず使わない概念的な言葉が並びます。
しかし、抽象的な文章が読めないのは、あなたの「地頭」のせいではありません。単に「抽象的な思考を具体レベルに翻訳する回路」がまだ脳の中に作られていないだけなのです。
この記事では、難解な評論文を「自分事」として理解し、得点に結びつけるための実戦的な読解トレーニング法を徹底解説します。
1. なぜ「抽象的な文章」は難しいのか?
そもそも、なぜ私たちは抽象的な文章を苦手に感じるのでしょうか。その原因は、言葉と実感が切り離されていることにあります。
言葉の「手触り」がない
「リンゴ」と言われれば、赤い色や甘酸っぱい味を想像できます。これは具体語です。しかし、「蓋然性(がいぜんせい)」や「換骨奪胎(かんこつだったい)」と言われても、頭の中にイメージが浮かびません。脳はイメージできないものを理解できないようにできているため、文字だけを追う「上滑り」が起きてしまうのです。
論理の「はしご」が見えていない
抽象的な文章は、高度な理論(抽象)と、それを説明するための実例(具体)を行き来します。読めない人は、この「抽象と具体のはしご」の繋ぎ目を見失い、筆者が今どの高さで話をしているのか分からなくなっているのです。
2. 読解力を劇的に変える「具体化トレーニング」
抽象的な文章を攻略するための最強の武器は、「具体化する力」です。以下の3つのステップでトレーニングを行いましょう。
ステップ1:「勝手に具体例」を差し込む
文章を読んでいて、「近代的な自我が……」といった難しい記述が出てきたら、一瞬だけ読むのを止めて「例えばどういうことか?」と自分に問いかけます。
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例: 「消費社会における記号の消費」という一文があれば、「みんながiPhoneを持つのは、機能が欲しいからだけじゃなくて、『iPhoneを持っている自分』というイメージ(記号)を買っているってことかな?」と、自分の身近な例に置き換えてみます。 この「勝手に具体例を考える」癖をつけるだけで、文章の解像度は劇的に上がります。
ステップ2:接続詞を「踏み切り」として活用する
抽象的な文章には、必ず「はしご」の場所を示すサインがあります。
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「例えば」「具体的には」: ここから難易度が下がる「ボーナスタイム」です。
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「つまり」「要するに」: ここからが筆者の言いたい「本質(抽象)」です。 これらの接続詞を「思考のギアを変える踏み切り」だと捉え、印をつけながら読みましょう。
ステップ3:対比の構造を「図」で捉える
抽象的な文章の多くは、「AではなくB」という対比構造を持っています。 (例:西洋的な合理主義 vs 日本的な感性) 余白に、二つの対立する概念を書き出し、それぞれに属するキーワードを仕分けする練習をしてください。言葉の意味が完璧に分からなくても、「これはAの仲間、これはBの仲間」と整理できるだけで、設問の正答率は飛躍的に高まります。
3. 共通テスト特有の「資料・図表」との向き合い方
近年の共通テストでは、文章だけでなく図表や資料を同時に読み解く力が求められます。これも実は「抽象と具体の往復」のテストです。
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本文(抽象・理論): 筆者の主張や一般的な法則
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図表・資料(具体・事実): 本文の内容を裏付けるデータや実例
「本文のこの一文を証明しているのが、この図表の数字なんだな」という風に、言葉とデータのリンクを探す訓練をしましょう。これができるようになると、新傾向問題は「難問」から「根拠が二重にあるサービス問題」に変わります。
4. 語彙力の強化は「量」より「背景」
抽象的な言葉を覚える際、辞書的な意味だけを暗記するのは非効率です。
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背景知識をセットで覚える: 例えば「アイデンティティ」を覚えるなら、単に「自己同一性」と暗記するのではなく、「思春期に『自分は何者か』と悩むこと。現代社会特有の悩み」といった背景(ストーリー)と一緒に理解します。 現代文キーワード集などを活用し、単語の裏にある「哲学的なお約束」を知っておくと、初見の文章でも「ああ、またあの話ね」と余裕を持って読めるようになります。
5. 保護者の方へ:思考の「翻訳」をサポートする
お子様が「現代文が苦手だ」と言っている場合、それは単なる勉強不足ではなく、抽象的な概念を扱うことに慣れていないだけかもしれません。
保護者の方にできる最高のサポートは、ニュースや新聞の記事について「これって、どういうことだと思う?」と、お子様の言葉で説明させてあげることです。 「つまり、こういうことだよね」と要約したり、具体的な体験談に結びつけたりする日常の会話こそが、論理的思考力の土壌を耕します。現代文の力は、机の上だけでなく、こうした親子の対話の中でも育まれていくものです。
6. まとめ:抽象的な世界を「自分の言葉」で歩く
抽象的な文章が読めるようになるということは、世界をより深く、多層的に理解できるようになるということです。
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「例えば?」と問いかけ、自分なりの具体例を脳内に映す。
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接続詞をヒントに、具体と抽象の往復を意識する。
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背景知識を学び、言葉の「手触り」を増やす。
このトレーニングを繰り返せば、共通テストの難解な評論も、もはや「得体の知れない暗号」ではなくなります。筆者との対話を楽しみながら、論理の筋道を鮮やかに辿れるようになるはずです。
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