「どこからどこまでがセリフなのか、読んでいてわからなくなる」 「カギカッコがないから、動作の主語が入れ替わったことに気づけない」
共通テストや難関私大、国公立の二次試験で古文に挑む受験生が、最初にして最大の試練としてぶつかるのが**「会話文と地の文の境界線」**です。
現代の文章と違い、入試の古文には基本的に「 」(カギカッコ)がありません。そのため、気づかないうちに会話文に突入し、いつの間にかナレーション(地の文)に戻っているという事態が頻発します。この境界線を見誤ると、誰が誰に対して何をしたのかという「人物関係」がすべて崩壊し、内容一致問題で致命的な失点を喫することになります。
しかし、古文には会話の始まりと終わりを告げる**「目に見えないサイン」**が必ず隠されています。この記事では、プロが実践している「会話文と地の文」を瞬時に見分けるための鉄則と、設問で狙われるポイントを徹底解説します。
1. なぜ「境界線」を見極めるだけで偏差値が上がるのか
古文読解の核心は、常に「誰が主語か」を特定することにあります。
敬語の「向き」が変わる
前回の記事でも触れましたが、敬語の「誰から誰への敬意か」というルールは、地の文と会話文で完全に異なります。
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地の文: 作者から登場人物への敬意
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会話文: 話し手から聞き手への敬意 境界線を読み違えると、敬語の矢印が逆転し、主語を真逆に捉えてしまうのです。
設問の8割は「会話の前後」で作られる
入試問題の作成者は、受験生がどこで混乱するかを熟知しています。あえて「会話の終わり」付近に傍線を引き、その直後の動作主を問う設問は定番中の定番です。境界線が見えることは、得点源を確保することと同義なのです。
2. 会話の「始まり」を告げる3つの合図
会話文がいきなり始まることは稀です。多くの場合、直前に以下のサインが登場します。
① 「いふ」「のたまふ」「聞こゆ」などの発言動詞
最もわかりやすい合図です。これらの動詞の直後は、高確率で会話が始まります。
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注意点: 動作の主体が誰かを確認しましょう。「のたまふ」なら貴人の言葉、「聞こゆ」なら貴人への言葉(謙譲)です。
② 「〜と(引用の助詞)」の気配
「〜と言った」「〜と思った」の「と」が来ることを予感させる文脈です。特に、発言動詞が省略されている場合でも、思考や発言の内容が始まる瞬間には、独特のリズムの変化があります。
③ 呼びかけや感動詞
「あな(ああ)」「いざ(さあ)」「もし(もしもし)」といった言葉が出てきたら、そこは100%会話文の中です。
3. 最重要!会話の「終わり」を見抜く決定的な決め手
受験生が最も苦労するのは「どこで会話が終わったか」です。以下の4つのポイントをチェックしてください。
① 引用の助詞「と」を見つける
最も強力な味方です。文章を読み進めて「と」が出てきたら、その直前で会話(または心内文)が終了した合図です。「〜とて(〜と言って)」「〜と聞きて」といった形も同様です。
② 接続助詞「ば・ど・を・に」の法則
会話の最後に「〜ければ」「〜けれど」「〜を」「〜に」といった接続助詞がつくことがあります。
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例: 「〜と言ひければ、(その後、別の人の動作)」 このように、接続助詞は「会話の内容」と「その後の展開」を繋ぐ接着剤の役割を果たします。
③ 敬語の「種類」と「レベル」の変化
これが最も高度で、かつ確実な判別法です。 例えば、地の文では帝に対して「最高敬語(せ給ふ)」を使っていたのに、急に「給ふ」だけの低い敬語、あるいは敬語なしの文が出てきた場合。それは、**「身分の高い人が、自分より下の人に話しかけている会話文」**に突入した、あるいはそこから脱出したサインです。
④ 文末の「終助詞」や「命令形」
「〜なむ(〜してほしい)」「〜かし(〜だよ)」「〜てよ(〜してしまえ)」など、会話でしか使われない表現が出てきたら、そこまでは確実に会話文です。逆に、それらが消えて「〜けり(〜だった)」のような伝聞・過去の助動詞で文が結ばれ始めたら、地の文に戻ったと判断できます。
4. 視覚化トレーニング:読みながら「 」「( )」を補う
演習中、頭の中だけで考えず、実際に以下の記号を本文に書き込む訓練をしましょう。
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会話文(口に出した言葉): 「 」で囲む
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心内文(心の中で思ったこと): ( )で囲む
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会話の中の会話: 『 』で囲む
最初は間違えても構いません。解説を読み、境界線がズレていたら「どの言葉が終わりを告げていたのか(例:『と』があった等)」を確認する。この繰り返しによって、初見の文章でも「ここが切れ目だ」という直感が働くようになります。
5. 保護者の方へ:古文は「台本」のない演劇です
お子様が古文のストーリーを読み違えているとき、それは単語を知らないからではなく、「カメラワーク(視点)」が切り替わったことに気づけていないからかもしれません。
保護者の方にできるサポートは、一緒に音読をしながら「ここからは誰のセリフかな?」とクイズ形式で確認してあげることです。古文は、登場人物のセリフと作者の解説が混ざり合った「台本のない演劇」のようなものです。 「主語を当てるゲーム」として古文を楽しむ余裕が生まれると、お子様の読解スピードは飛躍的に向上します。
6. まとめ:境界線が見えれば古文は怖くない
会話文と地の文の判別は、当てずっぽうで行うものではありません。
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発言動詞(いふ、のたまふ等)で「始まり」を予測する。
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引用の助詞「と」を、会話終了の「壁」として常に探す。
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終助詞や敬語のレベルの変化を、視点切り替えの合図にする。
この「境界線判別術」をマスターすれば、迷路のような古文の文章が、一本の整理されたストーリーへと変わります。
私の個別指導では、タブレットを使って本文を色分けし、どこが誰のセリフで、どこでナレーションに戻ったのかを「一目でわかる相関図」にしながら解説しています。
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