みなさん、「つつじ」といえばどこを思い浮かべますか?京都や箱根の山肌、あるいは公園の生け垣……そんなイメージが多いかもしれませんね。
ロンドンにも毎年春になると見事なつつじが咲き誇る場所があるんです。
しかも、そこに咲いているのは「日本生まれのつつじ」なんですよ!
その場所が、ロンドン南西部のリッチモンドパークの中にあるイザベラプランテーションです。
広大な公園の中に、まるで隠れ家のように佇む約16ヘクタールの庭。ここでは毎年4月末から5月初旬にかけて、池や小川のほとりがピンク、紫、紅のつつじで染め上げられます。その光景は、ロンドンにいながら日本の春を感じられるほどの美しさです。
では、なぜロンドンに日本のつつじがあるのでしょう?
その答えは、一人のイギリス人植物ハンターの話にさかのぼります。
彼の名前はアーネスト・ヘンリー・ウィルソン(E.H.ウィルソン)。中国や日本を渡り歩き、2000種以上のアジアの植物を西洋に紹介した伝説的な人物です。ウィルソンが久留米つつじに初めて出合ったのは、1914年の日本訪問のこと。
その美しさにすっかり心を奪われた彼は、こんな言葉を残しています。 「これらのつつじは1914年に私を魅了した。見れば見るほど、ますます心を奪われていく」 ─ アーネスト・H・ウィルソン(書簡より) その後1918年、ウィルソンは九州の久留米を再訪します。ここには、江戸時代から坂本素山という職人が育て続けた久留米つつじを源流とする品種が250種以上咲き誇る庭がありました。ウィルソンはその中から西洋の気候に適した50品種を厳選。これが「ウィルソン50」と呼ばれるコレクションです。
選ばれた50種はアメリカのハーバード大学・アーノルド植物園で増殖され、やがて世界の庭園へと旅立っていきました。
イザベラプランテーションにこの久留米つつじが植えられたのは1950年代のこと。当時の公園長ジョージ・トムソンと主任庭師ウォリー・ミラーが池のほとりに丁寧に植え込んでいったのが始まりです。
現在ではイギリスの植物保全機関から「ウィルソン50のナショナル・プラント・コレクション」に認定されており、この貴重なつつじを守り続ける公式庭園のひとつとなっています。
今では多くのロンドン市民がこの花を楽しみにこの時期(5月上旬)に訪れますが、このつつじが九州から旅してきたものだと知る人はそれほど多くはないかもしれません。
けれど、日英の植物交流が生んだこの美しい光景は、100年以上の時を超えて今も毎年春に咲き続けています。 春のロンドンにいらっしゃる機会があれば、ぜひイザベラプランテーションに立ち寄ってみてください。
鹿がのんびり草を食むリッチモンドパークの奥に、こんなにも素敵な「日本との縁」が待っていますよ。