小説:冴えないさえこ 1/3

Abemomo

この物語は、主人公 岡澤さえこが、矢部のコラムをパクったというところから始まります・・・

 

1章 刷り込み

 

さえこの母親は言ってみれば毒親だった。3人姉妹の長女であるさえこは常に優れていること、しっかりしていることを求められた。「賢く産んでやったんだから」が口癖だった。

小学校低学年のうちは100点を取ることもできた。でも、決して褒められることはなく、「お姉ちゃんはお手本なんだから当たり前でしょ」で終わった。

 

学年が上がるにつれて、100点を取るのは難しくなっていった。それは、さえこが特別頭が悪かったわけではなく、ごく一般的なことだ。しかし、さえこの母は「まったく、冴えてる子になって欲しいからさえこって付けたのに、冴えない子ねぇ」と無神経に言った。

 

その言葉は、さえこの奥深いところに何度も何度も刷り込まれていった。

 

「冴えない」と言われ続けたさえこはどんどん結果が出せなくなっていった。

そこそこの大学に行って、そこそこのところに就職して。

 

でも、一方で自分は賢いはずだ、いや、そうでなければいけないんだという強迫的な思いもあった。

 

能力が発揮できないのに一番になりたい。そんな時人はどうするか。努力して勝ち取ることはやめて、優秀な人間の足を引っぱることを考える。

(あいつさえいなければ、自分が一番になれる)

さえこは歳追うごとにそんな考え方の人間になっていった。

 

その後、さえこは結婚して、主婦になった。

結構な収入を稼ぐ旦那であったが、忙しくてかまってくれないことが不満であった。立派なマンションに暮らしていて、悠々自適な生活をして、普通であれば人に自慢したいくらいの暮らしをしていたが、暇なさえこにとってSNSは却ってストレスの元であった。

同年代の女性たちがすごく活躍している。年齢を重ねるごとに、役職に就く人、独立する人、テレビに出る人、いろいろ出てきた。それらがすべて許せなくなった。

 

もともと証券会社に勤めていたさえこはFPの資格を活かして自分も何かやろうと考えた。でも、人の相談に乗るほどの自信もなかった。そこで、執筆系のFPを目指した。

 

FPの勉強会や交流会に行くといろいろなFPに出逢った。

さえこはこういう時、組織のトップに取り入ることだけはうまかった。自分が一番になる効率の良い方法だと思っていたからだ。一般会員とか、新人っぽい人には目もくれなかった。

 

そんな中で矢部と出逢った。矢部は学歴も経歴も申し分なく、さえこと同年代だった。だから、最初は友達になろうと思って近づいた。しかし、「申し分ない」ということは、さえこより優れているということだった。

 

詮索癖のあったさえこは、矢部のSNSはもちろん、ネット上に掲載されている矢部の情報はすべて検索して読んだ。さえこはだんだん矢部が疎ましくなっていった。

矢部はのんびりした性格というか、人と争う気配がなかった。にもかかわらず着々と実績を上げていった。それが余計疎ましかった。

 

「矢部ってホントSNSに何書くかわからないの。危ないやつなの。だから、私いつも見張ってるの」

そんなことを言って、ストーキングしている自分を正当化しては、周りの人間たちに矢部の悪評をでっち上げて吹聴した。

 

何とかコイツを落としてやれないものか・・・

気が付くとそんなことばかり考えていた。

 

さえこは、運よくコラムを担当することができたが、どれも単発だったり、サイト運営が終了だったり、いろいろなことが起こって、その度にイライラが溜まった。

相手側の事情で仕事が終了することはよくあることだが、さえこには自分の能力がないせいだよと言われている気がしたのだ。「冴えないさえこ」という母の声が聞こえていた。

 

 

This column was published by the author in their personal capacity.
The opinions expressed in this column are the author's own and do not reflect the view of Cafetalk.

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