あなたにとっての思い出の音楽:YutaTanakaSound

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思い出の音楽という意味では本当にたくさんあるのですが、1番印象に残っているものはGustav MahlerのDas Lied Von Der Erde(大地の歌)です。

Mahlerといえば19世紀から20世紀の初めまでに活動した指揮者兼作曲家です。オーストリア出身でドイツ語圏で活躍しましたが、晩年は一時期アメリカにも移住し、New York Philharmonicのmusic directorと指揮も勤め、超多忙なスケジュールの合間を縫って作曲活動を続けました。彼はart song(歌曲)などに代表される歌を数多く書いていますが、それと共に1番から9番まで交響曲を完成させました。Das Lied Von Der Erdeは交響曲第何番といった数字こそついていませんが,交響曲と歌曲のハイブリッドのような曲でフルオーケストラをバックに2人のソリストが交互に歌う構成になっています。詩は中国の古い詩をドイツ語に訳されたものを使用しており、タイトルが示す通り、地球(自然)そして人間という大きいテーマが背景として存在しています。交響曲的な構成がありながら数字が付いていないのにはエピソードが残っています。Beethovenが交響曲第9番を最後に亡くなっているという事実から、Mahler自身も第9番を書いたらそれが最後の作品になってしまうのでは無いかと懸念していたそうです。実際にはDas Lied Von Erdeの後に交響曲第9番を書いてそれが本当に最後の交響曲となるわけで、結局そのジンクスは当たっていたということになります。とにかく、Mahlerは自身の体調から考えて、自分はそんなに生い先長くは無いということを意識した上でDas Lied Von Erdeの作曲を行なっていたことになります。

それでは私にとってこの曲にどんな思い出があるかと申しますと、ニューヨークで大学院に通っていた頃にオーケストラで演奏したのでした。その時の指揮者はMaurice Peressと言って、Aaron Copland School of Musicのorchestral music directorとして長い間在籍してらした方でした。彼は実はLeonard Bernsteinのassistant conductorをしていた時期に小澤征爾さんと同門同期だったという経歴があります。Mr. PeressはDuke EllingtonからEllington作品のsymphonic versionのアレンジ、指揮、録音を依頼されるなどジャズとクラシックのハイブリッド音楽を得意としていましたが、MahlerなどBernsteinのレパートリーも積極的に取り入れて大学のオーケストラのコンサートで披露していました。そんな「Maestro Peress(オーケストラでは指揮者をイタリア語で”先生”と呼ぶ風習があります)」ですが、2017年に享年87歳で他界されました。私としては病気というよりはその年齢を考えると彼は生を全うしたという認識です。その直前まで指揮と教鞭をフルタイムでこなし、どの大学生よりもエネルギッシュだった姿は今でも目に焼き付いています。私が音楽活動において死ぬまで引退したくないと願っているのには彼の影響がとても大きいことは否めません。

そんなMaestro PeressはDas Lied Von Erdeの最後の楽章をリハーサルする際にその楽章のタイトルの”Der Abschied”の意味についてオーケストラのメンバーに聞きます。答えは“Farewell”、つまり「別れ」なのですが、”This is gonna be the last time I conduct this piece.”などと言って文字通り全身全霊を捧げてオーケストラをリハーサルする彼の姿を見ると、MahlerのそしてMaestro Peressの人生への別れを予告する曲のように感じられた事を覚えています。そしていざその”Der Abschied”を演奏すると、これがとてつもなく深くて強烈な感情を呼び起こすような曲なのです。

この曲はゆったり最後まで続きで聴ける時間があって、かつその内容を受け止められるだけの精神的な余裕がある時にだけ聴きます。みなさまも時間がある時に聴いてみてください。
This column was published by the author in their personal capacity.
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