「仕事内容が変わっても解雇されるよりは良い」
「解雇されにくいというのは暮らしの安定性につながって良い」
メンバーシップ型雇用の特徴を持つ日本企業では、雇用契約を結ぶときに明確な仕事内容を決めず、その時々で職務内容を変更することによって雇用が維持されるのが一般的ですが、このような雇用慣行に対して、日本人の大学生と外国人留学生にどう思うか調査しました。
冒頭のコメントは日本人学生の自由記述回答にみられたものですが、雇用が維持されることを肯定的に捉えている様子がうかがえます。
選択式回答における日本人学生と留学生の回答傾向の違いは以下のとおりです。
職務内容の変更については、日本人学生、留学生とも肯定的意見と否定的の両方が見られました。
「適した仕事内容なら良い」
「自分がしたい仕事でないなら転職する」
しかし特徴的な違いは、留学生の回答には、職務内容が変わることによって新しい経験が得られるし、成長のチャンスになり得るのではないかといったコメントが複数見られたことです。ただ、これは同じ企業でなくても転職によっても新しい経験が得られるわけですから、雇用の安定維持に対する肯定的な評価とは言えません。
日本人学生と留学生の違いは、むしろ何をデメリットに感じるかにあると思います。つまり、どんな職務が割り当てられるかわからないという不確実性と雇用が打ち切られた後に有利な転職ができるかどうかわからないという不確実性があると思いますが、日本人学生は後者の不確実性を大きなデメリットに感じやすく、留学生は前者と後者で不利益を感じる程度に差がないのではないかと思います。そのため、選択式回答に見られるように日本人学生は、A.雇用を継続してもらえるのは良いと考える人のほうがB.仕事内容が変わる可能性があるのは社員にとって不利益だと考える人よりも多かったのに対して、留学生はAとBが同数だったのではないかと思います。
先行研究でも、日本人は不確実性への回避傾向が高いと指摘されています。オランダの文化人類学者であるG・ホフステード(Geert Hofstede)が、11万6,000人のIBMの社員を対象とする意識調査を実施し、国別の文化の違いをスコア化した研究があります。「権力格差」「個人主義/集団主義」「男性性/女性性」「不確実性の回避度」「長期志向/短期志向」「人生の楽しみ方」の6つの尺度で分析した「6次元モデル」といわれるものです。
冒頭の画像にあるように、上田(2022、p.17図表1)によると、日本、ベトナム、台湾、オーストラリアの4か国の中で日本が最も不確実性への回避傾向が高いということです。
この文化的特性は私の調査結果とも重なります。近年、大転職時代と言われ、日本でも人材の流動化が進むと予測する人もいますが、日本人の文化的特性から見ると長期雇用に対するニーズは今後も高いのではないでしょうか。また、文化的背景の異なる人は労働環境に対する評価も異なる可能性が私の調査からもうかがわれます。外国人労働者の受け入れを積極的に進める企業では、受け入れた社員が快く働くことができるのか、文化の違いに対する配慮が求められると思います。
<参考文献>
上田和勇(2022)「異文化のリスクマネジメントに関する理論と実際―Hofstedeモデルとベトナム日系企業の実態調査に関する比較研究を中心に―」『専修ビジネス・レビュー』Vol.17 No.1、pp.15-26、専修大学商学研究所.
PR TIMES
ホフステードの6次元モデルとは?人事部や海外事業部向けお役立ち資料「異文化理解の指標」更新版リリース
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000130.000077877.html
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