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大好きな小説:6 「吸血鬼ドラキュラ」ブラム・ストーカー

Aya


今や手垢がつきすぎた感もある「ドラキュラ」というキャラクターですが、元祖の小説をしっかり読み通したことのある方はあまり多くない気がします。読んだことがない方は一回でいいので、ブラム・ストーカーの書いた作品を読んでみて!!!といつも思っています。

テンポがよくて構成がしっかりしている点は、彼が当時の演劇に精通していたからと言われています。でもそれ以上に、私が初めて読んだときに引っくり返るような衝撃を受けて夢中になった理由というのが、ドラキュラと男たちとの同性愛的な描写でした。なんじゃこれ……そこらの耽美小説が裸足で逃げ出す色気……。ドラキュラはジョナサンの妻であるミナを狙うんですが、どう考えても最初に手をつけたジョナサンを追いつめる手段にしか見えないんですよね。ドラキュラの襲撃に対抗するべくチームを組んだ、ヘルシング教授と他の男たちとの友情というか仲間意識というかなんというかについても、あの、これ以上は早口でオタクトークを一方的に繰り広げる可能性があるので、とにかく読んでいただきたい。

こうした要素は私一人が盛り上がっているわけではなく、ちゃんと研究されています。当時の名優アーヴィングの劇団の事務方として、ブラム・ストーカーは20年以上に渡ってカリスマ的な俳優を支え続けました。こうした個人的な経験と、当時の大英帝国にとって「東からくる脅威」が潜在的な恐怖の対象であり、自分たちの存在意義を蹂躙しかねない者に対する興味が高まっていた世相とが相まって、ドラキュラの圧倒的な存在感と、隠喩的な「侵略」とが息詰まるエロティシズムを醸し出している、みたいななんちゃら。

この小説のもうひとつの特徴は、その形式です。通常の小説のように「起こったことを順番に作家が書いていく」という形式ではなく、日記、手紙、当時最先端だった蝋管レコード、速記文字による供述の書き取り、電報に新聞記事と、様々な媒体を通して「何があったか」が提示されていきます。現在も『近畿地方のある場所について』などのように、こうしたメディアミックス的手法の創作は定期的に話題になりますが、その技法が既に用いられているのです。この形式によって、ドラキュラという東欧から迫る得体の知れない存在は、現実にいるかのように立体性を増し、彼が我々の社会のどこかに実際に「いる」という感覚が生まれています。

英語読解の観点からいえば、こうした色々な媒体が出てくる小説というのは、短い文書の積み重ねなので読みやすく、しかもそれぞれの文体の違いや、話し言葉と書き言葉の区別を勉強しやすい構造と言えるでしょう。長い小説ですが、とにかくお勧めの一作です。

Dracula by Bram Stoker | Project Gutenberg
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