古文の勉強を始めた受験生が、最初に突き当たる大きな壁。それが「助動詞」です。 特に過去・完了・存続を表す「けり・き・つ・ぬ・たり・り」のグループは、どれも現代語に訳すと「〜た」になってしまうことが多く、違いがさっぱり分からないという声をよく聞きます。
しかし、入試古文において、これらの助動詞の「ニュアンスの違い」を見抜くことは、読解の生命線です。筆者がその出来事をどう捉えているのか、動作が今も続いているのか、それとも完全に終わったのか。これらを正しく判別できるかどうかが、得点力の差に直結します。
この記事では、紛らわしい助動詞たちをグループ別に整理し、入試で狙われるポイントを徹底的に解説します。
1. 「過去」の助動詞:き・けり
どちらも過去を表しますが、その「情報の出所」が全く異なります。
「き」:直接経験の過去
自分が実際に体験したこと、直接見たことを表します。いわば「日記の過去」です。
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ポイント: 主語が一人称(私)である場合や、作者が直接見聞きした回想シーンでよく使われます。
「けり」:間接経験の過去(伝聞過去)
人から聞いた話や、物語の語り手が使う過去です。
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ポイント: 物語の冒頭「今は昔、竹取の翁といふ者ありけり」のように、「〜だったそうだ」というニュアンスを含みます。
【重要】「けり」の詠嘆を見逃すな! 和歌の中や、会話文の最後で使われる「けり」は、過去ではなく**詠嘆(〜だなあ!)**の意味になります。「今こそ気づいた!」という驚きを表すため、ここを過去で訳すと文脈が壊れます。
2. 「完了」の助動詞:つ・ぬ
どちらも「〜してしまった」と訳しますが、動作の性質によって使い分けられます。
「つ」:人為的・意識的な完了
自分の意志で行う動作(書く、食べる、行くなど)に付きます。
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ニュアンス: 「しっかりとやり遂げた!」という強めの完了です。
「ぬ」:自然的・無意識的な完了
自然現象や、自分の意志とは関係なく起こる動作(雨が降る、死ぬ、花が散るなど)に付きます。
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ニュアンス: 「いつの間にかそうなってしまった」という、時の流れを感じさせる完了です。
3. 「存続・完了」の助動詞:たり・り
これらは「動作が終わった(完了)」だけでなく、「その状態が続いている(存続)」という意味を持ちます。
「たり」:場所を選ばない万能型
体言(名詞)に接続する「たり(断定)」と混同されやすいですが、動詞の連用形に付く「たり」は完了・存続です。
「り」:接続が超特殊(サ変未然・四段已然)
入試で最も狙われるのが、この「り」の接続です。「サ未四已(さみしい)」という呪文で覚えましょう。
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サ変の未然形 + り
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四段の已然形 + り これ以外の動詞には付きません。逆に言えば、已然形に「り」が付いていたら、それはほぼ間違いなく存続・完了の助動詞です。
4. 読解を加速させる「強意」の組み合わせ
「つ・ぬ」が他の過去の助動詞「き・けり」と合体すると、意味が強まります。
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「てき」「にき」「つるなり」「ぬらむ」 これらが出てきたら、「〜てしまった」という完了の意味がさらに強調されていると考えましょう。特に「てき」「にき」は「確実に〜した」という強い過去の断定として訳すと、文章にリズムが出ます。
5. 保護者の方へ:助動詞は「パズル」のピース
お子様が「古文が暗号に見える」と嘆いているなら、それは助動詞というピースが正しく嵌まっていないサインです。 助動詞の活用表を丸暗記するのは苦痛ですが、「なぜここでは『ぬ』ではなく『つ』が使われているのか?」という理由を知ることは、探偵が証拠を見つけるような面白さがあります。
保護者の方にできるサポートは、単語や活用を覚えているお子様に対して、**「『き』と『けり』って、どっちが自分の体験だっけ?」**と、意味の「違い」をクイズ形式で聞いてあげることです。知識が繋がる瞬間の喜びを共有することが、古文嫌いを克服する第一歩になります。
6. まとめ:違いが分かれば「情景」が見えてくる
過去・完了の助動詞は、古文という世界の「時間軸」を決定する重要なパーツです。
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き(直接体験)vs けり(伝聞・詠嘆)
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つ(意志的)vs ぬ(自然的)
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たり・り(状態の継続を意識する)
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「り」の接続は「サ未四已」で判別する
これらを意識して本文を読むと、単なる「〜た」の羅列だった文章が、筆者の驚きや、刻一刻と変化する情景の描写として生き生きと浮かび上がってきます。助動詞をマスターすることは、千年前の人々の「心の動き」を正確に受信することに他なりません。
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