「漢文は句法さえ覚えれば満点が取れる」 そんなアドバイスを耳にしたことはありませんか? 確かに、否定や使役、反語といった句法をマスターすることは漢文攻略の絶対条件です。しかし、いざ模試や過去問に挑戦してみると「句法はわかるのに、結局何を言っているのか細部が掴めない」という壁にぶつかる受験生が後を絶ちません。
その原因の多くは、現代日本語の意味とは異なる**「漢文特有の熟語(重要語彙)」**の知識不足にあります。
共通テストや難関大の記述入試において、熟語の知識は読解のスピードを上げるだけでなく、現代語訳問題での失点を防ぐ命綱となります。この記事では、入試に頻出する漢文熟語を厳選し、読解の武器となる「50選」としてまとめました。
1. 漢文熟語を攻略するための「視点」
漢文の熟語には、大きく分けて3つのパターンがあります。
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現代語と全く意味が異なるもの(例:遠慮=遠くを見通した深い考え)
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意味が限定・専門化されているもの(例:左右=側近の家臣)
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特定の句法とセットで使われるもの(例:所以=理由、手段)
丸暗記しようとするのではなく、「なぜこの漢字の組み合わせがこの意味になるのか」という背景(漢字の本来の語義)をセットで理解するのが、最短で身につけるコツです。
2. 【ジャンル別】漢文頻出熟語リスト50選
入試で狙われやすい順に、5つのカテゴリーに分けて整理しました。
① 人間関係・地位に関する熟語(重要度:高)
物語の主語や客体を特定するために不可欠です。
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1. 左右(さゆう): 側近、身近に仕える者。
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2. 臣(しん): 私(家臣が君主に対して使う一人称)。
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3. 寡人(かじん): 私(王や諸侯の自称)。
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4. 卿(けい): あなた(君主が臣下を呼ぶ時など)。
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5. 先生(せんせい): あなた(学徳のある人への敬称)。
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6. 夫子(ふうし): 先生、あなた(特に孔子を指すことが多い)。
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7. 小人(しょうじん): つまらない人間、徳のない者。
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8. 君子(くんし): 徳のある立派な人間。
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9. 百姓(ひゃくせい): 民衆、人民。
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10. 故人(こじん): 旧友、昔なじみの友達。
② 思考・感情・性格を表す熟語
筆者の評価や、登場人物の動機を読み解く鍵となります。
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11. 遠慮(えんりょ): 遠くを見通した深い考え。
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12. 迷惑(めいわく): 道に迷う、心が乱れて惑う。
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13. 執心(しゅうしん): 深く思い込む、執着する。
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14. 容赦(ようしゃ): 許すこと(顔をゆるめて許すイメージ)。
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15. 意(い): 気持ち、考え、おもむき。
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16. 肯(がへんず): 承知する、うなずく。
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17. 逆(むかふ): 迎える、あらかじめ〜しておく。
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18. 羞(はづ): 恥じる、恥ずかしく思う。
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19. 奇(きとす): 珍しく思う、優れていると評価する。
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20. 称(しょうす): 褒める、称賛する。
③ 時間・場所・頻度を表す熟語
物語の展開(いつ、どこで、どれくらい)を整理するために必要です。
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21. 日(ひに): 日に日に、毎日。
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22. 嘗(かつて): 以前に、これまでに。
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23. 偶(たまたま): 偶然に、思いがけず。
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24. 適(たまたま): ちょうど、偶然にも。
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25. 俄(にはかに): 急に、突然。
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26. 既(すでに): すでに、〜し終わって。
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27. 終(ついに): 結局、最後には。
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28. 卒(ついに): 結局、とうとう(「死ぬ」という意味もある)。
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29. 数(しばしば): 何度も。
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30. 具(つぶさに): 詳しく、詳細に。
④ 論理・因果関係を表す熟語
文章の構造を決定づける、最重要語彙です。
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31. 所以(ゆゑん): 理由、手段、目的。
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32. 是以(ここをもちて): だから、こういうわけで。
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33. 於是(ここにおいて): そこで、こうして。
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34. 然(しかり): その通りだ、そうである。
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35. 虽然(しかれども): そうではあるが、しかし。
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36. 如何(いかん): どうであるか(状態を問う)。
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37. 奈何(いかん): どうしたらよいか(方法を問う)。
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38. 物故(ぶっこ): 死ぬこと。
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39. 城(じょう): 都市、町(お城そのものより広い意味)。
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40. 社稷(しゃしょく): 国家、朝廷。
⑤ 意味を間違えやすい要注意熟語
現代語のイメージに引きずられると誤読する危険な単語です。
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41. 多少(たしょう): どれくらい(疑問)、多い。
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42. 感謝(かんしゃ): 謝る、辞退する(「ありがとう」ではない!)。
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43. 結構(けっこう): 計画、企て、建物の構造。
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44. 経済(けいざい): 世を治め民を救うこと(経世済民)。
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45. 勉強(べんきょう): 無理に努力すること。
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46. 親友(しんゆう): 親しい親類(友達ではない場合が多い)。
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47. 出世(しゅっせ): 世の中に出る、俗世を離れる(僧侶になる)。
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48. 邪魔(じゃま): 悪魔、仏道を妨げるもの。
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49. 情(じょう): 真実、本質、本当の気持ち。
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50. 消息(しょうそく): 生き死に、事情、手紙。
3. 効率を最大化する「漢文熟語」暗記法
漢文は他の科目に比べ、暗記すべき量はそれほど多くありません。以下のステップで効率よくマスターしましょう。
ステップ1:句法と紐づけて覚える
「所以(ゆゑん)」のように、句法の知識として出てくるものは、必ず「書き下し文」のリズムと一緒に覚えてください。声に出すことで、漢字の並びを見た瞬間に意味が浮かぶようになります。
ステップ2:漢字の「パーツ(語義)」を意識する
例えば「俄(にはかに)」なら、亻(人)が「我」を張るように急に動くイメージ。「具(つぶさに)」なら「道具をすべて揃える=詳しく」という風に、漢字一文字の核心的な意味を理解すると、熟語の意味も忘れにくくなります。
ステップ3:読解中に「辞書」を引く癖をつける
模試や問題演習で「なんとなく読めたけど、この熟語の意味ははっきりしない」という箇所を放置しないでください。漢文用の辞書や重要語彙集で確認するその「一手間」が、本番の1点を左右します。
4. 保護者の方へ:漢文は「パズル」のような楽しさ
漢文は漢字ばかりで難しそうに見えますが、実はルールが非常に明確な「パズル」のような教科です。 お子様が漢文に苦手意識を持っている場合、まずは「漢字のパズル」を解くための「パーツ(熟語)」を揃えてあげることが大切です。
保護者の方にできるサポートは、食卓などで「『左右』って漢文では『側近』っていう意味なんだって、面白いね」といった豆知識を共有してあげることです。日常の言葉とのギャップを楽しむ姿勢を見せることで、お子様の学習への心理的ハードルを下げることができます。
5. まとめ:熟語を制する者は漢文を制す
漢文の成績を安定させるための「最短ルート」は、**「句法の型」+「頻出熟語の知識」**です。
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人間関係や論理関係の熟語から優先的に覚える。
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現代語との意味のズレ(古今異義語)に注意する。
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書き下し文のリズムに乗せて音読する。
今回紹介した50選をマスターすれば、初見の文章でも「あ、これはこういう展開だな」と予測を立てながら読めるようになります。漢字の並びの向こう側にある、当時の人々の思考や物語を読み解く喜びを、ぜひ体感してください。
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