「古文の文法は動詞さえ覚えればなんとかなる」 もしそう考えているとしたら、それは非常に危険な落とし穴です。
センター試験から共通テストに変わり、二次試験でも精緻な読解が求められる現代の入試において、形容詞・形容動詞は「登場人物の感情」や「場面の雰囲気」を決定づける極めて重要なパーツです。動詞が「動作」を表すのに対し、形容詞・形容動詞は「心の動き」を表します。つまり、ここを正しく判別できないと、物語の核心である「なぜその人物はそう動いたのか」という文脈を読み違えてしまうのです。
しかし、多くの受験生にとって、形容詞の「ク活用・シク活用」、形容動詞の「ナリ活用・タリ活用」の区別や、その後に続く助動詞との接続は混同しやすいポイントでもあります。
この記事では、形容詞・形容動詞の正体を見抜き、入試で狙われる識別ポイントを完璧にマスターするための最短ルートを解説します。
1. 形容詞の攻略:ク活用とシク活用の見分け方
古文の形容詞には、二種類の活用があります。これらを正しく見分けることは、文法問題だけでなく、単語の正確な意味を把握するためにも必須です。
見分けの呪文は「なる」をつけること
形容詞を「なる(連体形の下に続く形など)」に繋げてみたとき、その音の変化に注目してください。
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**「く・なる」**と聞こえるもの = ク活用(例:高し → 高くなる)
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**「しく・なる」**と聞こえるもの = シク活用(例:美し → 美しくなる)
現代語の感覚をフル活用する
実は、現代語の「〜い」で終わる形容詞の多くは、古文の活用を引き継いでいます。 「赤い(赤くなる)」はク活用、「苦しい(苦しくなる)」はシク活用といった具合です。直感で迷ったときは、一度現代語に直して「〜くなる」か「〜しくなる」かを確認するのが最も速い判別法です。
なぜ「補助活用(かり活用)」があるのか
形容詞の活用表を見ると、右側に「く・く・し・き・けれ」、左側に「から・かり・〇・かる・〇・かれ」と二列並んでいます。この左側の「かり活用」は、助動詞と接続するためだけにある特殊な形です。 「高し」+「けり(過去)」を繋げたいとき、「高くけり」とは言えません。そこで「高かり・けり」と補助活用を使うのです。「かり活用は助動詞のための専用レーダー」と覚えておきましょう。
2. 形容動詞の攻略:ナリ活用とタリ活用の正体
形容動詞は、状態や性質を表す言葉ですが、形が助動詞の「なり」「たり」とそっくりなため、受験生を悩ませます。
ナリ活用(静かな状態を表す)
「静かなり」「あはれなり」など、現代語の「〜だ」にあたる言葉の多くがこれに該当します。活用はラ行変格活用に似ており、「なら・なり・なり・なる・なれ・なれ」と変化します。
タリ活用(生き生きとした描写)
「堂々たり」「毅然たり」など、主に漢字の熟語に付いて、その様子を生き生きと描写します。「たら・たり・たり・たる・たれ・たれ」と活用します。
「形容動詞」か「名詞+助動詞」かの判別法
入試で最もよく問われるのが、「なり」が形容動詞の一部なのか、断定の助動詞なのかという識別です。
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判別ポイント: 上の言葉に「いと(とても)」をつけて不自然でなければ、それは状態を表す形容動詞です。逆に、「いと + 名詞」になってしまい意味が通じない場合は、断定の助動詞である可能性が高くなります。
3. 入試で差がつく!「形容詞・形容動詞」の読解テクニック
文法の形を覚えたら、次はそれを「どう読解に活かすか」を考えます。
語幹の用法(「あな、〜し」の形)
「あな、めでた(ああ、すばらしい)」のように、活用語尾を切り捨てた「語幹」だけで使われる形があります。これは非常に強い感動や、感極まった際の心の叫びを表します。文章中にこの形が出てきたら、筆者や主人公の感情がピークに達している「重要場面」だと判断してください。
「〜を〜み」の構文
「山を遠み(山が遠いので)」という、原因・理由を表す特殊な形も形容詞の語幹を用いたものです。現代語訳の問題で狙われやすいため、「AをBみ = AがBなので」という公式として暗記しておきましょう。
4. 効率的な暗記法:リズムとセットで叩き込む
形容詞の活用表を眺めているだけでは、試験のスピード感にはついていけません。
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活用表を縦に唱える: ク活用なら「く・く・し・き・けれ・〇」、補助活用は「から・かり・〇・かる・〇・かれ」と、リズムに乗せて10回ずつ唱えます。
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特定の接続をセットにする: 「美しから(未然)+ず」「美しかり(連用)+けり」のように、実際によく出る助動詞とセットでフレーズ化して覚えるのが、実戦で「反応」するためのコツです。
5. 保護者の方へ:言葉の「ニュアンス」を楽しむサポート
古文の形容詞や形容動詞は、当時の人々の豊かな感性を表しています。例えば「あはれなり」という言葉一つとっても、単に「悲しい」だけでなく「しみじみと趣がある」という深い意味が含まれています。
保護者の方にできるサポートは、お子様が古文単語を覚えている際、**「それって、現代の言葉だとどんなイメージに近いかな?」**と、その言葉の持つ「質感」について会話を広げてあげることです。 単なる記号の暗記ではなく、千年前の人々の「きれいだな」「寂しいな」という心に共感する。その楽しさを知ることで、文法学習の苦痛は「発見の喜び」に変わります。
6. まとめ:感情の動きを捉えれば、古文はもっと面白くなる
形容詞・形容動詞の見分けと使い分けは、古文という物語の「色」を識別する作業です。
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形容詞は「なる」をつけて、ク活用かシク活用かを一瞬で判断する。
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補助活用は「助動詞と繋がるための専用フォーム」と割り切る。
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形容動詞は「いと」をつけて、単なる名詞+助動詞と見分ける。
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語幹の用法を見つけたら、感情の昂ぶりに注目する。
この視点を持つだけで、あなたの古文読解は「なんとなく訳す」レベルから「筆者の心を正確にトレースする」レベルへと進化します。文法の知識は、暗記のための壁ではなく、物語をより深く楽しむためのレンズです。今日から、文章の中にある「心の動き」を丁寧に追いかけてみてください。
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