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Cafetalk Tutor's Column

Kei Taga 講師のコラム

猿と温泉と外国人

今週のテーマ: ちょっと笑える、人間と動物のふれあいストーリー

2020年10月23日 | 1 コメント

遡ること数年前の冬。まだ大学生だった私はニューヨークの友人と日本を旅行する機会があった。

彼は私と違い交友関係も広く、言葉が喋れないにも関わらず、日本に多くの知人を持っており、私は通訳係みたいな立場で同行していた。

生粋の外国人であった友人は私の日本に関する知識を過大評価していた節があり、ことあるごとに日本の文化について質問されることが多々あった。その都度、私は彼に、日本は自分にとっても異国の地であり知らないことは多いのだと説明しなければいけなかった。

そんな旅行で我々は温泉地へ赴いた。その温泉宿は友人の知人の一人が紹介してくれた所で、山奥の現代社会と時差があるような場所に聳え建っていた。

友人は樹々に囲まれる中で、瓦屋根を光らせた宿を見上げ、"Looks like a place Princess Mononoke lives."とコメントをこぼした。正確にはもののけ姫は建物の中ではなく森の中に住んでいるのだが、と思ったが、目を輝かせている友人を見てその言葉は飲み込むことにした。

宿に入ると客は我々だけらしく、廊下は冬の静寂だけが響いていた。我々は一緒に来た友人の知人に勧められ、早速温泉に向かうことにした。ここで、私は外国人である友人が人前で裸になって風呂に入ることに抵抗があるのではないかと心配したが、杞憂だった。彼は以前、日本に来たとき既に経験をしていたらしく、着替え室に入っても全く動じることはなく服を脱いだ。しかし、そこで浴場の方から物音がし、私たちは同時に露天風呂へ通じる、すりガラスへと振り向いた。

私は知人に、今日は客がいないのではなかったのかと尋ねた。すると彼は何事もないような顔で、この季節だと露天風呂に猿が入っていることもあるのだと言った。

私はその言葉をプロセスするのに最低でも十秒は要した。今まで猿が温泉に入っているのなど、写真でしか見たことがなく、実際にそんなことが起こり得るなど信じられなかった。

横で通訳をせがむ友人を半ば無視して、私は露天風呂への扉を開けた。すると、冬の冷気の奥に茶色い毛で覆われた真っ赤な顔が三つ湯気の中に浮かんでいるのが見えた。

感動と驚きが混ざった感情が私の中で爆発した。これだけでも、この旅行へ来れてよかった。本気でそんなことを思った。

そんなふうに感嘆に浸っていると、私の後ろで英語で叫ぶ声が聞こえた。振り向くと、元から白い顔を
した友人がさらに白んだ顔をして猿の方を見ていた。

"Even monkeys take bath in Japan?"

正確には寒いところに温泉があれば日本でなくとも猿は風呂に入るのだが、と思ったが、恐怖と好奇心に満ちた目をした友人を見てその言葉は飲み込むことにした。


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