日本人でも無意識に使っている一方で、扱いに苦悶している人たちもいるでしょう。それが尊敬語、謙譲語をはじめとする、敬語が代表格と言えます。
大学3年辺りになって、慌てて習い始め、就職試験では赤面ものの発話のオンパレードという方もいらっしゃいませんか?(筆者も同様でした…)
ひとまず、 基本的な日本語教育での尊敬語と謙譲語の作り方の一覧を見てみましょう。 そもそも「敬語自体、 まともに使ったことがない!」 という方は、参考にしていただければ幸いです。
_のところは前節で述べた連用形(日本語文法では)から「ます」を取った形と考えてください。動詞のグループ別(それぞれ5段活用、1段活用、変形活用)に分けると、このような形になります。
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尊敬語➀ 尊敬語② 尊敬語③
飲む 飲まれる お飲みになる 召し上がる
言う 言われる × おっしゃる
見る 見られる × ご覧になる
食べる 食べられる お食べになる 召し上がる
します されます × なさる
来ます 来られます × いらっしゃる
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謙譲語➀ 謙譲語②
言う × 申す・申し上げる
飲む お飲みする いただく
見る × 拝見する
食べる お食べする いただく
する ご_する いたす
来る × 参る
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この中での留意点として、尊敬語①は受身(受動態)の形と同じであること、尊敬語②は「ます」の前が一文字だけの「します」「見ます」などの動詞は使うことができない、「言います」など、使われないものもあるという点が存在します。
また、謙譲語は基本的に「自分から相手に対する動作」を下げるのが目的であるため、謙譲語①の例にあげた「お飲みします」「お食べします」という言い方は変形方法こそ正しいものの若干違和感があります(実際は「伝えます→お伝えします」「案内します→ご案内します」というのが形態的にも意味としても自然な例ですが、先述の表は一つの動詞の全ての敬語表現における変化を一覧で紹介するため、このような形としました)。
また、変形方法とは別に意味の面で言いますと、あくまでも「自分から相手に対する動作」を下げる という目的のほかに、「相手に対する動作でなくても、目上の相手に対して自分のことや自分の家族を下げる」という目的で使われることもあります。
そして最後に、尊敬語③と謙譲語②は動詞ごとに個別の表現があり、そちらは暗記する以外に方法はありません。
その他もろもろの敬語云々の面については市販の敬語マニュアルなどを参考にするとして、注目したいのは、実際の日本人の会話において、 これらの尊敬語・謙譲語表現が2つ以上重ねて使われる、または尊敬語と謙譲語を 一つの文章で混同して使われているケースです。
実際に重ねたり、混同したりしたケースをいくつか出してみましょう。まず、先述した尊敬語で一つずつ例を挙げます。
尊敬語➀:社長はお酒を飲まれますか?
尊敬語②:社長はお酒をお飲みになりますか?
尊敬語③:社長はお酒を召し上がりますか?
これにそれぞれ、別の尊敬語を二つ以上付け足した例を挙げてみます。
尊敬語②+➀:社長はお酒をお飲みになられますか?
尊敬語③+➀:社長はお酒を召し上がられますか?
尊敬語③+②:社長はお酒をお召し上がりになりますか?
尊敬語②+③+➀:社長はお酒をお召し上がりになられますか?
謙譲語もまず例文を出します。
謙譲語➀:私が後でメールでお知らせします。
謙譲語②:私がこの街をご案内します。
謙譲語②:部長が6時にそちらに伺います。
こちらも重ねて使うと、このような例になりますが、日常会話で使う人もそこそこいるのではないでしょうか。
謙譲語①+②:私が後でメールでお知らせいたします。
謙譲語①+②:私がこの街をご案内いたします。
謙譲語②+①:部長が6時にそちらにお伺いします。
謙譲語①+②+②:部長が6時にそちらにお伺いいたします。
謙譲語と尊敬語を混ぜて使った例も紹介しましょう。
尊敬語③:ご家族はどちらにいらっしゃいますか?
謙譲語②: 私の父はそう申しました。
謙譲語②: 部長が6時にそちらに参ります。
謙譲語②+尊敬語➀:ご家族はどちらにおられますか?
謙譲語②+尊敬語➀:私の父はそう申されました。
謙譲語②+尊敬語➀:部長が6時にそちらに参られます。
ただ経験上、接客業のマネージャーなどは「お客様に対しては丁寧すぎるに越したことはない!」というスタンスからか、二重の尊敬語を使うことに対しては寛容な人が多いとのことです。
また、関西地方では「おる」に関しては謙譲語扱いではなく、「いる」と同義で使われているため、不適切な使い方ではないという声もあります。筆者の見た限りでは、大阪出身の東野圭吾氏の作品でも、「おられる」という尊敬語表現が高頻度で見受けられました。そのため、必ずしも一概には「不適切な使い方だ!」などと目くじらを立てる必要はないのではないでしょうか。
その一方で、話を聞く側の人間としては、尊敬語を重ねて使えば使うほど、文章が複雑かつ回りくどくなったと感じてしまいます。人によっては自分と距離をとりたい、慇懃無礼だと感じてしまい、堅苦しい、意図がわかりにくいとの印象を与えることもあるでしょう。そのため、シンプルに 一つの述語には、尊敬語または謙譲語表現は一つで充分との共通認識があるのです。
敬語はシンプルな方がいいか、逆に丁寧なら丁寧すぎる方がいいか、そちらは好みが個人差で分かれるところです。筆者もシンプルに使う方がいいというスタンスですが、口頭でも「している」を「なさってらっしゃる」というように使うこともあります。ひとまず、最低限の丁寧さを目上や初対面の相手に見せられれば、その場は無難に映るのではないでしょうか。
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