バイオリンを楽しむヒント〜空間図形が大事Vol.3「楽器の持ち上げ方」

中村勇太

ヴァイオリンの初歩で、低い減を弾く時に特に注意を受けがちなのが「左肘の位置」です。
肘を入れて!と口酸っぱく言われる人も多いと思います。

しかし、大事なことは「なぜ肘を入れる必要があるのか」を理解することです。

弾いている途中で指の長さは変化しません。腕の長さも変化しません。
左手の指を弦に向かってどういう角度、向きで落とすか、は
ネックと左手がどういう位置関係で接しているか、です。

指の付け根が指板に対して低すぎたり、ネックから遠いと指は伸びます。
指が伸びると手は緊張します。動きにくいです。複数の弦を抑えることもできません。

各弦の平面にふさわしい位置になるように、
指の付け根とネックが当たる「相対的な」位置関係を大事にします。

ネックと指の付け根の相対的な位置関係は、言い換えると「楽器と左肘の相対的な位置関係」です。

スクロール、糸巻き側から自分の顔に向かって眺めるとわかりやすいです。

初歩で多くの人が、肩当てや顎当てを強く挟んでしまう
→楽器が水平になっている
→どんなに肘を入れてもG線側に指がしっかりとどかない
→指がしっかり届かない
→指が寝てしまう
→できることが制限される
というのが、根本的な問題です。

ヴァイオリンは肩当てや顎で持ち上げるものではない、と
繰り返し書いていますが、左手で持ち上げる時にも間違いが起きやすいです。

左手の親指はサポートにすぎません。
左手で垂直の向きに持ち上げるのはやや間違いです。
左肘の位置、役割と重さを感じる向きの整合性が取れません。

人差し指の付け根のあたり、側面で、反時計回りの向きに
ネックを左胸に引き上げるように構えます。

こうすると、ヴァイオリンは水平にはなりません。
左肘の位置、楽器の重さの感じ方ともピッタリになります。

なぜこうするのが正しいかと言うと、
ヴァイオリンは、メニューインが五十肩で発明するまで肩当てはありませんでした。
顎当てもシュポーアが発明するまでないものでした。

顎当てや肩当てのない時代の絵を見てみると、
「胸に置いているように」構えているのがわかります。
復元されているヴィオロンチェロ・ダ・スパッラという楽器がありますが、そういうイメージです。

顎の一部分に軽く引っ掛けて、左手の人差し指の付け根で持ち上げる。
これが、モーツァルトのお父さんの著書に書かれている原則です。

なんとなく、構えてみた、なんとなく弾けた、というケースはラッキーです。
でも、深層部まで正しい感覚を一発で捉えられるケースは極めて稀です。

自分の音に疑問がある、自分の構えに疑問がある、という場合は、
真正面から取り組まないと根本的には治りません。

大袈裟に言うと、ガッツリ「持つ」、しっかり「持って安定させよう」とすると重さも振動も感じられません。
重さも振動も感じられないということはコントロールできる範囲が少ないと言うことです。出せる音質、出せる音量、かかるヴィヴラート…表現の幅が狭まります。

振動を感じる、ということはある意味では安定しないということです。
そういうギリギリの感覚を詰めていくことが大事だと思っています。 

本コラムは、講師個人の立場で掲載されたものです。
コラムに記載されている意見は、講師個人のものであり、カフェトークを代表する見解ではありません。

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