創作とは常に冒険である。

今週のテーマ: 好きな格言やことわざはなんですか? その格言・ことわざを好きになったきっかけは?

Remi Inari

こんにちは!作曲家で音楽科講師のRemiです。
日本のみなさまは猛暑に加え、地震や台風などの自然災害でなかなか心の休まらない8月だった方々もいらっしゃるのではないかと心配しています。みなさまいかがお過ごしでしょうか?
こちらアメリカでは9月から新年度ということで(学校関係は場所によって8月末から始まっているところもあるようです)、新生活準備シーズンです。
今回のコラムでは、
【今週のお題】好きな格言やことわざはなんですか? その格言・ことわざを好きになったきっかけは?
について、新年度へ向けた自戒も込めて、書いていきたいと思います。

タイトルにもあるように、私の好きな格言は
芥川龍之介の「侏儒の言葉」に出てくる一節

”創作とは冒険である。”

です。
これは結構有名な格言ですし、特にセンセーショナルなことを言っているわけではないのですが、
実は私が最も気に入ってる言葉は、この後に続くフレーズ

”所詮は人力を尽くした後、天命にまかせるより仕方はない。”

初めて読んだ時に、「そうか!!!!やっぱりそうだよね!!!そうだよね!!!!!!」と大賛成、大共感してしまいました。

芸術ってなんだろう。創るってなんだろう。と作曲家として、ずっとずっと考えてきました。
もちろん答えが出たことなど無くて、なんだろうな〜ってずっと思っているのですが、そんな答えが見つかってない最中でも、ずっと創作はしているわけです。

悩んだり、苦しんだりとかは創作活動をする者にとって(おそらくはそうじゃない人にとっても)もはや当たり前のことだと思います。私が個人的に目標としているのは「その時々のできる限りの事をして常に誠実でいること」なのですが、例えば不条理なことがあったり、思い通りに上手くいかないことがあったとしても、不必要に落ち込んだり、腐ったりしないためには「自分の努力でコントロールできることと、できないことを分けて考える」ことがポイントだと思っているのですが、まさに”人力を尽くした後、天命にまかせる”とドンピシャです。

「侏儒の言葉」の冒頭では 「必ずしもわたしの思想を伝えるものではない。唯わたしの思想の変化を時々窺わせるのに過ぎぬものである。」の述べられていますが、それを加味しても、芥川龍之介の言葉にはドキッとさせられるものが多いです。

例えば、「芸術その他」の中の一節に
”芸術のための芸術は、一歩を転ずれば芸術遊戯説に堕ちる。人生のための芸術は、一歩を転ずれば芸術功利説に堕ちる”
というのがありますが、これはまさに私自身もオランダでの芸大生活やその後の日本やアメリカでの音楽活動をしている中でもずっと感じ、悩んでいたことでもあります。

では、そもそもなぜ私がこんなに芥川龍之介の言葉を気に入っているのかというと...

遡ること2020年、パンデミックによって、エッセンシャルワーカーでない芸術家や音楽家たちの活動は一旦停止の世の中だったので(異議を唱える芸術家や音楽家がたくさんいたことも把握していますが、あの時点においての社会の決断に私は不満はありませんでした)
例に漏れず、私もアメリカに引っ越してきて半年が経ち色々軌道に乗るかどうかという時期ではありましたが急ブレーキからの超一時停止状態だったので、それまで読んでこなかった本などを読んでいました。
いわゆる日本の名作家たちの作品、名前は知っているけど読んだことはないシリーズ(もしかすると国語の教科書で読んだかもしれないけど全く覚えてなくてごめんなさいシリーズ)から読みはじめたのですが、その中でグサグサと言葉が突き刺さってきたのが芥川龍之介でした。

ちょうど自分のアルバムを創りたいと思っているところだったので、芥川龍之介の短編をもとにして作曲することにしました。
作曲の題材にするにあたって、芥川龍之介のあらゆる作品を読めば読むほどに、自分自身の創作の仕方に対してはもちろんのこと、身の振り方であるとか、世の中の観察の仕方について深く考えさせられました。それと同時に芥川龍之介自身も苦悩していたこともヒシヒシと伝わってきて、その苦悩やもがきみたいなものは、決して芸術家や音楽家だけのものじゃなく、この世で生きるものみんなにあるものであるということが現代まで誰もが知る小説家である所以なのでしょう。

曲にしてみたいと思った短編7つを選び、2021年〜2022年にかけてそれぞれの話をもとにして7曲の独奏曲を書きました。
そして興味を持って共感してくれたミュージシャンに演奏をお願いして、アメリカ各地でレコーディングをしてもらい、今月ようやくリリースとなりました!

Spotify Apple Music/iTunes Youtube Music Amazon Music などからお聴きいただけます。

このアルバム制作の過程は作曲のプロセスも含め、正に私にとっては冒険でした。すでに知人音楽家を中心に色々な感想もいただいていてとても嬉しいのですが、現代音楽なんて全然聞いたことないよ、知らないよというみなさんにも「へえ、こんな音楽もあるんだな」と思ってもらえれば幸いです。
前述した通り、まだまだ答えのない問いの最中ですし、一つの作品として世に出すことができましたが、これからも私は研究を続け、力を尽くして創作をしていきたいと思います。


今まさに何かを創作中というみなさん、一緒に頑張りましょう!!
創作に興味のある方、お悩み中の方、ぜひ気になる講師を見つけて相談してみてください。


私は音楽専門となってしまいますが、気兼ねなくご相談いただければ嬉しいです。

それでは、残暑の厳しい地域のみなさまも、季節の変わり目の地域のみなさまも、どうかご自愛くださいね!

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本コラムは、講師個人の立場で掲載されたものです。
コラムに記載されている意見は、講師個人のものであり、カフェトークを代表する見解ではありません。

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