祖父は、とても達筆(たっぴつ)な人だった。
祖父は、寡黙(かもく)な人だった。
両親と祖父母の関係がわるかったので、
子どものころはあまり祖父母に遊んでもらうこともなく、
思い出も多くはない。
ただ、小学生のときに、名字の漢字を
教えてもらったことは忘れない。
「斉」という字は「齋」の略字(りゃくじ)だと思っていたけれど、
そうじゃなく意味も違うと教えてくれたのは祖父だった。
達筆なその手で、ゆっくり「齋」の字を教えてくれた。
私が大学生になって、
祖父が年をとって、
ゆっくりと2人で話す機会があったのだが、
その時に言われたことばが忘れられない。
「おれは日かげをずっと生きてきた。
おまえはずっと日なたを生きている。
おれの気持ちはお前にはわからない。
でも、わからなくていい。
おまえはずっと日なたを歩いて行け。」
ゆっくりゆっくりと穏やかに言われた。
当時はすごくさびしくなったが、
今は祖父のことばのように生きていけるようにと
考えながら日々を過ごしている。
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