聖なるものと魔なるものとの狭間を奏でる音楽という存在

Makoto ATOZI

 2000年 平井堅「楽園」
 ここから、この人生に歌を書くという道を与えられた。

 あれから23年の年月。

 この時間、年月は本当にあったのだろうか、実在したのだろうかと、不思議に感じてしまう。

 精神的、物質的にあまりにも沢山のことがあった。

 多くの関係者の予想を上回る反響を呼び起こした歌。
 この歌の歌詞を書いた当時、僕にそれだけの実力があったのかと、自分自身に問うと、YESとはいえない気持ちになる。

 多くの才能と実力あるクリエイター、制作陣の中で、僕は作詞家という役割を与えられ、その方々の才能と叡智に導かれて、この歌は誕生した。

 制作にあてられた時間も、現在の音楽業界から見ればありえないほどに恵まれていた。

 あれからの23年の年月、あまりにも幻のように僕の心の中にあるけれど、この歌「楽園」の歌詞を紡いだ時の風景、想念、願いは今も強烈に心にある。僕にとっての世界が揺れ動いた出来事だった。

 奇跡のように。

 歌が売れていた数年間、まるで誰かが、僕の人生の物語を書いているかのように感じられる日々を走り抜けていた。

 そしてV6「ありがとうのうた」嵐「トビラ」「ONLY LOVE」「嵐の前の静けさ」「Firefly」前川清「霖霖と」石川さゆり「風ゆらら」中村美律子「ようやったね」おれパラ「眠るものたちへ」上白石萌音「ジェリーフィッシュ」など(敬称略)、多くの歌の制作に携わらせていただいた。

 途中、業界を離れた時期もあったけれど、昨年からはもう一度、制作活動を開始させていただいた。

 同時に作詞教室を立ち上げ、プロアマを問わず指導させていただいています。

 紆余曲折の人生で、這いつくばるような貧困状態、そして栄華のようなもの、両極の世界を垣間見てきた。

 精神的な苦しみから、人生をやめようとしたことも何度もあった。だから今、僕は今この人生を死後の世界のように感じている。

 そうして、今だから感じられる心の境地を得て、もう一度、歌を書こうという気持ちになりました。

 この世界には聖なるものと魔なるものと中間(動き)という3つの性質があります。

 厳密に、この3つだけに分けられるわけではなくとも、音楽にもおなじように宿る性質がある。

 自我を生き、エゴを満たす世界へ魔なるエネルギーを放射するのか。

 真我を求め、大いなる力を信じ、誠実でありたいとする世界へ光なるエネルギーを放射するのか。

 動きある生物(人間)へ人間としての営みを生も悪もなく生命をエネルギーとして放射するのか。時代を反映し、人々の心を描くという道。

 それぞれにそれぞれの歌が持つエネルギーがある。

 時代は今、科学文明の発展に歯止めが効かず、闇と魔の世界の勢力に包まれつつあるように感じられます。

 音楽もその傾向が強い。

 僕が書いた「楽園」は、一聴すれば暗く感じられ、退廃的な内容かもしれない。

 それでも、けして他者を責めてはいない。攻めようともしていない。

 実際は、一筋の大いなる光を描きたかった。

 僕たち人間は、案外、自分の行いには気づいていない。

 何をするにしても、自我が起こす世界の現れに対してかなり無頓着です。

 それでも、自分の内側にある光が輝き出す時、周りを見てみれば、あまねく光に気づきます。

 世界を悪者としてみれば醜い場所ばかりが見えてくる。

 世界を真我として見てみれば、尊い世界が見えてくる。

 人はみんな必死で生きている。精一杯生きている。

 世界は尊い。

 それを愛と呼ぶのか光と呼ぶのか真我と呼ぶのか。

 呼び方は人ぞれぞれでも、一つ一つの生命という世界の現れ。

 それらをつなぐ見えない一つ。

 それはとても尊い。

 これからの人生、歌で、自分が気づいた愚かさ、世界の尊さ、矛盾の中の真理。

きっと誰かの心に、なんらかの光を灯せるような、気づきのある歌を放つ活動を、僕は行っていくのだと思います。

 目に見える全ては、人類のエゴ的な知性を超えた大いなる力に満ちています。

 選ばれた歌にはそれらの力を心に届けることのできるエナジーが宿ることがある。

 これからもそのパワーを見てみたい。

 世界がどのような姿を見せてこようとも、世界の尊さを、生命という尊さを真我で見つめていたい。

 言葉にするのは簡単でも、簡単なことではないけれど、それが人生なのかな。

 自分は、かなり豊かな音楽の時代、時代の大きな波を見つめ、飲み込まれてきた生き証人の一人だと感じています。

 最後尾ランナーの気持ちで、そしておなじように世界を包み込むような気持ちで、この尊い世界を生きていく。

 愚かなピエロのような現れと、蓮華のハートで。

 

Makoto ATOZI

This column was published by the author in their personal capacity.
The opinions expressed in this column are the author's own and do not reflect the view of Cafetalk.

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