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小田原のおばちゃんはすごかった

Nijio

今から七年ほど前、臨床心理カウンセラーの仕事を続けてゆくことが、精神的に

しんどくなっていた頃、渋谷109のギャル霊媒師としてメディアでも有名な飯塚

唯さんに鑑定をお願いしたことがある。

 

その際に彼女からからこんなことを言われた。

 

「心理カウンセリングだけではなく、スピリチュアルの要素を入れた方が上手く

いくと思います。私のようなやり方が良いと思います」

 

「それって、霊視鑑定的な・・ということですか?」

 

「ニジオさんはそのような能力をお持ちですよね?」

 

 

そんな話はまったくしていないのだが、そういうのも視えてしまっているらしい。

 

 

「はい、子どもの頃からそのような兆候はありました。でもそれはみんなあると思

っていたし、当時はとても弱いものでした」

 

「あなたは人の潜在意識の深いところにストンと入っていって相手の気持ちに

共感できる人です。相手の苦しみを自分の苦しみとして感じることができる人で

す。持って生まれたその才能を生かさない手はありません」

 

(これって以前にハワイのヒーラーにも言われたことだ)

 

さらにこう続けた。

 

「でもそれは、相談者さんの全てのストレスがあなたの心にのし掛かってくると

いうことでもあります。そのストレスを逃がしてやる前に、次の相談者さんの話

を聞いてしまったらどうなると思います?」

 

「・・・」

 

「今のやり方ではあなた自身がつぶされてしまいます。ですのでスピリチュアル

な要素を取り入れた方が良いでしょう。そうすることで他人を癒すだけでなく、

ニジオさん自身も救われてゆきます」

 

そのようなことを言われて鑑定は終わった。

 

 

心理カウンセリングと霊視鑑定の違いは何なのか。どちらも悩みを抱えている人

の話を聴くことではないのか。

 

そもそもなぜスピリチュアルな要素を取り入れれば私が救われるのか。

 

その時は、唯さんの言う事が今ひとつ腑に落ちなかった。

 

だが、ある時ふと私が過去に会ったある祈祷師の女性とのやり取りを思い出した

ことで、実はもの凄くありがたいアドバイスであったことに気づかされた。

 

 

夢枕に立つ男

 

話は今から二十数年前に遡る。

 

私の一歳下のいとこ、ヒカルが自ら命を絶った。

 

ヒカルの名誉のため詳細は書かぬが、毒親が支配する幼少期の過酷な家庭環境を

生き抜き、ようやく親元から離れた後に心を病んだ。

 

その末のことだった。

 

それからほどなくしてヒカルは私の夢枕に立つようになった。それも毎晩である。

 

夢の中の彼の表情は苦難に満ちていた。

 

私自身、何かできることがあればしてやりたいのだが、当時の私にはそこまで強

い霊的パワーもなく、日々仏壇に手を合わせ読経するくらいしかしてやれること

はなかった。

 

しかし読経程度では彼に納得してもらえず、まるで日課のごとく私の夢枕に立ち

続けた。

 

さてさて、どうしたものか。

 

 

当時交際していた女性にその話をすると、小田原に住む植松房江さんという祈祷

師の女性を紹介された。

 

彼女は職場の上司から植松さんの話を聞いたと言う。

不動産関連の問題を抱えていた上司の奥さんが相談をするのに、夫である上司も

同席したとのことだった。

 

 

「とにかくよく当たるんだよ。俺は占いとかは興味ないけど、そういうのとはま

た違う感じでさ。予約の時に電話口で受付の女性が、誰が相談に来るのか聞くん

だよ。なんでも興味本位に占い感覚で来られると困るからって女性の二人組は断

るんだって。本当に困っている人しか視ないらしいんだ」

 

上司とのそんなやり取りを彼女から聞かせてもらい、植松さんに繋がる電話番号

のメモを渡された。

 

彼女も相談したいことがあるらしく、さっそく電話で2人分の予約を取った。

 

駅からはタクシーで10分もかからない。

その上司が言うには、植松さんは地元ではかなりの有名人で、ドライバーに名前

さえ伝えれば連れて行ってくれるとのことだった。

 

「運転手さん、祈祷師の植松さんって分かりますか?」

 

「あぁ、〇〇町のね」

 

確かに。住所を言わずともあっさりと伝わってしまった。

 

 

そこは閑静な住宅街に佇む、広い門構えの昔ながらの一軒家だった。

 

玄関を入ると受付の女性が対応してくれた。

 

「いま、前の方が鑑定中ですのでこちらでお待ちください」

 

案内された小部屋で待っていると、隣の部屋から鑑定の様子が聞こえてくる。

 

(声が筒抜けだ・・・)

 

 

私もこういう事は初めての経験で緊張していたせいか、隣室の会話は耳には入っ

てくるのだが、内容は全く入ってこなかった。

 

時折植松さんは語気を強めながら、かなり厳しい口調で相談者に向けて何やら話

していた。

 

たまらず隣に座る彼女に耳打ちした。

 

「ムッチャこわい人じゃん」

 

彼女も植松さんのただならぬ気配を感じたのだろう。私の顔を見ながら眉根を寄

せた。

 

 

それから程なくして私たちの番が回ってきた。

 

私が相談内容と、私と従弟の名前と生年月日を伝えると、植松さんはそれを紙に

書き留めて目を瞑り、あちらの世界と交信を始めた。

 

そして途中軽く頷きながらゆっくりと目を開けた。

 

「彼が言うには・・」

 

いきなり話し出したので、私も慌てて用意していたペンを走らせメモを取った。

 

「彼は『これまで一生懸命生きてきたけどもう疲れた。ニジオ君のように明るく

楽しく生きてゆきたかったけどダメだった。ごめんね』と言ってます」

 

その言葉を聞いて悲しいわけではないのだが、なぜか涙がとめどなく溢れてきた。

 

「ニジオさんの夢枕に現れたのはあなたの思い込みではないわ。彼の意思で現れ

てるの。僕が生きていたことを覚えていてほしいと伝えたかったって」

 

植松さんは、さっき隣室で聞いていたあの厳しい口調の女性とはまるで別人で、

温かくやさしい口調で語りかけてくれた。

 

 

「だからね、彼の誕生日とか、命日とか、そういう日に彼の好きだったものを仏

壇にお供えしてお線香を焚くのがいいわね」

 

「彼は外国産のビールと煙草が好きでした。それを供えるようにします」

 

こうして鑑定は終わった。

 

 

ちなみにだが、続けてもう一つ相談したことがあった。

 

当時私は旧友と「新しくビジネスを始めたいよな」といった話をしていたので、

彼との起業についても聞いたのだが、こちらは実にあっさりと却下された(笑)

 

「それはやめといた方がいいわね。おばちゃんには(植松さんは自分のことをお

ばちゃんと呼ぶ)、そのお友達の本気度が伝わってこないの。それと事業を始め

るには資金がいるでしょ。この方お金持ってないわよ」

 

(あ、断言するんだ・・)

 

「やるんだったらあなた一人でなさい」

 

 

そしてこの後、彼女の鑑定にも立ち会ったのだが彼女の泣きっぷりは私の比では

なかった。涙と鼻水で顔がグッシャグシャだった。

 

その横顔を見ていて思った。

この人は間違いなく本物の霊能者であるのに加えて、超がつくほど優秀なカウン

セラーでもあるのだなと。

 

私たちは鑑定のお礼を言って、おばちゃんに二人分の心付けを渡した。

 

おばちゃんは鑑定料というものを特に定めてはいない。

 

「相場が分からなくてすみません」と私が言うと

 

「お金には困っていないので、来てくれる人の気持ちだけでいいの。饅頭ひとつ

だって、本当に困っている人の役に立てればそれだけで嬉しいのよ」

 

やさしく微笑みながらそう言ってくれた。

 

私たちが帰ろうとすると、お寺のご本尊のような立派な仏壇の前に、山と並べら

れた相談者からであろうお供え物を指差すと

 

「今日は遠くからよく来てくれたわね。ここにあるの持っていって。おばちゃん

はもう年だし、こんなに食べられないから。目が良く見えないから適当に選ぶわ

ね」

 

そう言ってお供え物の果物やお菓子、誰かが駅前で買ってきたのだろう、アジの

干物(笑)などを手渡された。

                                      

 

ほんとうに、一つひとつの言動に愛が溢れていて、その全てが温かい人だった。

 

 

帰宅後、私はバドワイザーとラッキーストライクを仏壇に供え、どこまで届くか

分からないが、ヒカルがこの世に生きていたことは決して忘れないと誓った。

 

それからというもの、苦悶の表情を浮かべながら何かを訴えるヒカルの夢を見な

くなった。

 

たまに現れてもその表情は見違えるように穏やかだった。

 

そして今でも忘れないのは、夢の中で楽しそうに様々な報告をしてくることだっ

た。

 

「今ね、学校で学び直してるんだよ」

 

「オレ、大工になったんだ」

 

「オレ、好きな人ができた」

 

 

現れる度にその顔はやさしく穏やかになってゆく。

 

それからしばらくして、ヒカルは私の夢から完全に消えた。

 

 

そして私は彼が成仏したのだと悟った。

 

帰るべき場所へたどり着いたのだ。

 

 

結果的にこの出来事が私の霊的覚醒のトリガーとなり、目には見えない様々なも

のを感じられるようになった。

 

 

魂が浄化されているのよ

 

そして話は冒頭のギャル霊媒師、唯さんの言葉だ。

 

心理カウンセリングだけでは私の心が潰されてしまう。

 

それまでの私のやり方は、当然だが心理学をベースにしていた。

相手の話を聴き、臨床に基づき時にアドバイス的なことを話しながらその人の気

づきを待つ。

 

その際に自分でも無意識のうちに、相手がもがき苦しんでいる闇の世界に足を踏

み入れてしまう。そして盾も矛も、闇を照らす松明も持たぬままその人と一緒に

トンネルの出口を必死に探している。

 

その疲労感たるやハンパない。全てが無理で、全てを投げ出したくなることもあ

った。

 

 

しかしスピリチュアルな要素を取り入れることで事態は一変した。

 

自分の心にバリアを張る(結界を作る)ことで相手の苦悩をダイレクトに受け取

ることがなくなった。

 

そもそも、相手の痛みや不安に共感はしても、自分の心まで削ってはならなかっ

たのだ。

 

 

それでもカウンセリングには支障なかった。霊的覚醒という特別なスキルが全て

をカバーしてくれた。

 

相談者さんの過去を霊視することで問題の起点を知ることも出来た。時にはその

人に関係する亡き人の声が、解決のヒントを与えてくれることもあった。

 

それまでと比べて、問題解決のための処方箋が入っている引き出しが格段に増え

たのだ。

 

このことは私の心に大きなゆとりを与えてくれた。

 

それを実践できたのは、二十数年前に植松のおばちゃんが私にしてくれた鑑

定・・いやスピリチュアルカウンセリングを思い出したからだった。

 

おばちゃんは私と彼女が鑑定中に流した涙を

 

「魂が浄化されているの。だから涙が出るのよ」と教えてくれた。

 

 

時は巡り今、私の鑑定を終え多くの相談者さんが「浄化の涙」を流して帰ってゆ

かれる。そんな時は何よりも私自身が救われる。

 

こうして、今や対面での鑑定は半年待ち一年待ちとも言われるギャル霊媒師の進

言は、私のパラダイムシフトとなった。私の今があるのは唯さんのおかげだ。

 

これからも相談者さんの痛みに寄り添い、闇を照らす希望の光であり続けたいと

心から思う。

 

 

ちなみに旧友との新規ビジネス案件について「やめといた方がいいわね」と一喝

された件なのだが、千パーセントおばちゃんの言う通りだった。

 

 

熱く盛り上がっていたのは私だけで、友人にその気は全くなかった。

おばちゃんには全て視えていたのだ。

 

私はその数年後、ひとりハワイで起業した。

 

 

 

小田原のおばちゃんはマジで凄かった。

 

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