日本語・韓国語講師の Hayoung_Eikoです ^ ^
先日のレッスンで、学習者さんからこんな質問がありました。
「職場に日本語がすごく上手な方がいて、
よく『なんちゃら』って言うんですけど、それって何ですか?」
なんちゃら。
日本人なら何となく分かるけれど、
あらためて「どういう意味ですか?」と聞かれると、
少し説明に困る言葉です^^;;
というのも、なんちゃら自体が、
何か特定のものを表しているわけではないからです。
たとえば、
「あの駅前にできた、なんちゃらカフェに行ってきたよ。」
この場合、カフェの名前は思い出せていません。
それでも、伝えたいのは正式な店名ではなく、
「あのカフェに行ってきた」ということ。
聞いている人も「ああ、あそこね」と分かれば、
店名が出てこなくても、それほど気になりません。
「健康なんちゃらっていう番組で見たよ。」
これも、番組名より、
そこで見た内容を早く話したい気持ちが前に出ています。
聞き手には、「名前は忘れたけれど、
健康についての番組だったらしい」という、
少しおおらかな情報だけが届きます(笑)
本当の名前はあるけれど、今は出てこない。
あるいは、正確に言うほどでもない。
そんなとき、その空いたところに、
ひょいっと入ってくれるのがなんちゃらです。
似たような場面では、なんとかもよく使います。
「あの俳優さん、山田なんとかさんだよね?」
名字は覚えているのに、下の名前が出てきません。
言っている人には、「ここまで出ているのに!」という、
もどかしさがあります。
同時に、「山田さんの下の名前、分かる?」と、
相手に助けを求める気持ちも伝わります。
これが、
「あの俳優さん、山田なんちゃらさんだよね?」
になると、「名前は忘れたけれど、まあそんな感じ」と、
少し力が抜けます。
冗談として受け取れる間柄なら楽しいのですが、
その俳優さんの大ファンだったら、
「なんちゃらじゃないよ!」と訂正したくなるかもしれません(笑)
なんとかは、何とかして思い出そうとしている。
なんちゃらは、思い出せなくても、まあいいか。
似ているようで、そこに表れる気持ちは少し違います。
日本語には、このほかにも、
あえて具体的に言わない表現があります。
たとえば、何々や誰々。
「『私は何々が好きです』の何々に、
好きな食べ物を入れてください。」
ここでの何々は、忘れてしまった言葉ではなく、
あとから別の言葉を入れるために空けてある場所です。
「ここは自由に変えてください」という合図なので、
聞いた人も「自分の言葉を入れればいいんだな」と受け取ります。
人の名前なら、誰々が使えます。
「誰々さんがそう言った、というだけでは分かりません。」
この場合は、名前を思い出せないのではなく、
誰が言ったのかをあえて問題にしていません。
人の名前ではなく、「人から聞いただけでは判断できない」
という話の中身に目を向けてほしいのです。
少し極端に言えば、
「何々会社の誰々さんが、何々と言っていました。」
という、ほとんど何も分からない文を作ることもできます(笑)
聞いた人は、「会社名も、人の名前も、発言の内容もない!」
と思うかもしれません。
それでも、「ある会社の、ある人が、何かを言った」
という文の形だけは、ちゃんと残っています。
日本語では、具体的な部分がまだ決まっていなくても、
そこだけを仮の言葉で埋めて、話を先へ進めることができるのです。
そして、なんちゃらは、
ときどきなんちゃらかんちゃらにまで成長します。
「遅刻した理由を、電車が遅れたとか、
目覚ましが鳴らなかったとか、なんちゃらかんちゃら言ってたよ。」
ここまで来ると、何かの名前を忘れたという話ではありません。
相手が並べた理由を一つずつ伝える気はなく、
「いろいろ言っていたけれど、結局は言い訳でしょう?」と、
少し冷めた目で見ています。
聞いている側にも、
“はいはい、いろいろ事情があったんですね”という、
呆れた空気まで伝わってきます。
「今日は予定があるとか、忙しいとか、
なんちゃらかんちゃら言って、結局来なかった。」
この人も、相手の事情に納得しているというより、
「結局、来なかった」という結果を言いたいのでしょう。
もし、これを言われた本人が聞いたら、
「ちゃんと理由を説明したのに!」と思うはずです。
なんちゃらかんちゃらには、長い説明をまとめるだけでなく、
その話をあまり重要だと思っていない気持ちまで表れることがあるのです。
そのため、真剣に説明している本人の目の前では、
使わないほうがよさそうです。
「先生が、今日の文法について、
なんちゃらかんちゃら言っていました。」
生徒に悪気はなくても、
先生には「説明を全部まとめて捨てられた……」
と聞こえてしまうかもしれません。
先生はきっと、
「そこ、全部大事だったんだけどな……」
と思うでしょう(笑)
名前が出てこなくても、会話まで止めなくていい。
正確な言葉を忘れてしまっても、
大事な部分が伝われば、話はそのまま続けられます。
けれど、なんとか、なんちゃら、なんちゃらかんちゃらと、
言葉が変わるにつれて、そこに表れる気持ちも少しずつ変わっていきます。
一生懸命に思い出そうとしているのか。
名前はそれほど大事ではないと思っているのか。
それとも、相手の話を「はいはい、分かりました」と軽くまとめているのか。
何も意味していないように見える言葉にも、
話す人の気持ちや、相手との距離がしっかり表れているのです。
さて、このコラムを読んだあとで、肝心の言葉を忘れてしまったら……
「あの……名前を忘れたときに使う、なんちゃらっていう言葉!」
はい、大丈夫。
それで、ちゃんと伝わっていますよ ^ ^
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