あなたは、「あつい」「高い」など、「い」で終わる形容詞を日常会話で使う時、どのように言っていますか？そのまま「～い」で発話していますか？

この件は筆者が一番日本語教育の知識面で、苦労したところです。詳細を見ていきましょう。

皆さんは年上、目上の相手や、初対面または知り合って日が浅い相手に対しては、「です・ます」の形で話しますね。
  一方、付き合いがそれなりにある友達や年下相手、家族に対して、また独り言を口にする際は、もっと異なるフランクかつくだけた話し方があると思います。後者の話し方をする際、形容詞はそのまま「～い」の形で話すことはあまりないのではないでしょうか。

例えば普通に言う「寒い」。隣近所の人に話す際は「寒いですね」という丁寧形になります。一方で友達と話すときは「さみぃ」「さっむ」などというように、発音変化が生じます。筆者が調べた限りでは、少なくともこの発音パターンが4通りありました。

まず、そのパターンを確認します。
➀寒い→さむっ　高い→たかっ
②　　　さみぃ　　　　×
③　　　×　　　　　　たけぇ
④　　　さっむ　　　　たっか
※①と④パターンを合わせたもので、「さっむっ」「たっかっ」という言い方もあります。

どうでしょうか？読者のあなたはどのような言い方がこの4パターンの中で多いでしょうか？
　使い分けとして、②と③パターンは専ら若い男性のみが使うイメージがあり、女性が使うと、やさぐれていると見なされて、周囲にドン引きした人の輪ができてしまいますね。

ただ、疑問点もあります。①と④は「高い」と「寒い」のどちらも使われていて、違和感がないと思います。しかし、「寒い」を③パターンに当てはめると、「さめぇ」となりますが、このような言い方をする人は少なくとも筆者は見たことがありません。
　同様に、「高い」は②パターンに当てはめると、「たきぇ」ですが、それも日本人のネイティブスピーカーにはついぞ聞いたことがないのではないでしょうか。この使い分けも、日本人は無意識的なもので、日本語学習者には理解が難しく、ネイティブもすんなりと説明ができない事項に思われます。

　また、日本語の教材は学習者が日本人の輪に入れるよう、基本的に丁寧形で書かれており、このようなくだけた言い方はそうそう記されてありません。
　そのため、ネイティブにとっても日本語学習者にとっても完全なる未知の領域で、日本語学習者としてはネイティブの使い回しを見聞きするぐらいしか、この話し方になじむ術がないのではないでしょうか。

ai：やばい  　→やべぇ
ii：うれしい　→×
ui：さむい　 →さみぃ
ei×
oi：すごい　→すげぇ

(出典：『日本語文法の史的研究と日本語教育との接点―関西方言のウ音便と話し言葉におけるイ形容詞のエ段長音を例に』武蔵野大学 日本文学研究所紀要　劉 志偉)

こちらの文献では、パターン②の「ぃ」、パターン③の「ぇ」となるメカニズムの分析がなされていました。それによると、パターン②の「ぃ」となるのは「い」の前の母音が「u」の形容詞で、例に挙げた「さむい」「わるい」のほか、「あつい」「かるい」などもこの発音変化があります。
　その一方、パターン③の「ぇ」の発音変化はありません。実際に「さめぇ」「われぇ」など、言わないですよね？

逆に「い」の前の母音が「a」「o」であれば、パターン③の「ぇ」の長音化があり、「たけぇ」とは言っても、パターン②の「たきぃ」という言い方は存在しないのです。

まず、パターン②と③の発音変化は以上です。ただ留意点として、「い」の前がや行とわ行の文字が入った場合はどうでしょうか？

「かゆい」は「かいぃ」、「よわい」は「よえぇ」など、や行とわ行のみ、子音が存在しないため、イとエの母音のままで発音されるのです。

それからもう一つ、単独では用いられない「～たい」「～ない」も、形容詞と同じ発音変化があります。しかし、こちらはパターン③の「ぇ」の発音変化だけで、残りの3つの発音変化はないですね。

パターン⓵と④はほぼほとんどの形容詞に適用されると思います。ただ、ここまで挙げた例は「たかい」をはじめ、3文字のもの。「おもたい」「あたたかい」など、パターン④は使えないですね。(「つめたい」が「つめたっ！」「つっめた！」という場合もあるので、これは確定的なことはまだ言えない状態です)