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「先生の授業は充実でした」という誤用 ~名詞として使うのか、動詞として使うのか問題~

Naoko.S

 日本語の授業の後、生徒さんが「今日の授業はとても充実でした。先生、ありがとうございました。」のように言ってくれることがあります。「充実していた」「充実感を味わえた」という意味だと思ってほめ言葉として受け取るのですが、実は「充実だ」という言い方は日本語としておかしいです。「充実」は「充実する」という動詞述語の形で使うか、「充実感」のような名詞にしなければならず、そのまま述語にはできません。

同じような問題は、初級レベルの段階でも起こります。「休みます」と「休みです」、「食べ過ぎます」と「食べ過ぎです」の2種類の述語が出てきて、どちらの形を使うべきかで迷う、あるいは、間違ってしまうことがあります。

(1)  明日は祝日だから、学校は{×休みます/〇休みです}。

(2)  風邪をひいたので、今日の授業は{〇休みます/×休みです}。

(3)  お菓子を{〇食べ過ぎました/×食べ過ぎでした}。2kgも太ってしまいました。

(4)  あなた、{×飲み過ぎます/〇飲み過ぎです}よ。もうやめといたら?

 

 ただ、「充実」のような漢語の場合、中国語を母語とする学習者にとって大きな問題となります。なぜなら、中国語にも同じ漢字を使う「充充実)」という言葉がありますが、中国語では形容詞として使われていて、日本語と中国語で品詞が異なるからです。

 その他にも、「回復」「成熟」「低下」「不足」「解決」「矛盾」「参考」「需要」「供給」、など
の語が「○○だ」の形で使われるのか、「○○する」の形で使われるのか、それとも述語にする場合には「なる」など他の動詞を使わなければならないのか、
日本語学習者にとって実は非常に難しい問題です。
 
外国語の語彙学習は、意味だけでなく品詞性(名詞か動詞か形容詞か)、他動性(自動詞か他動詞か)、コロケーション(どんな語と一緒に使われるか)など、さまざまな知識も同時に学ぶ必要があります。それらの深い語彙知識があってこそ、本当に使える語彙

力になります。

<参考文献>

五味政信・今村和宏・石黒圭(2006)「日中語の品詞のズレ―二字漢語の動詞性をめぐって―」『一橋大学留学生センター紀要』第9号、pp.3-13.

松岡知津子・玉岡賀津雄・酒井弘(2009)「アスペクトによる漢字二字熟語のサ変複合動詞化に対する
  予測」由本 陽子・岸本 秀樹(編)『語彙の意味と文法』pp.121-137.

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